
【結論】都営住宅の原状回復費用における免除は、災害や生活保護受給に近い困窮など要件が極めて厳格ですが、決して諦める必要はありません。全額免除が難しくても、経年劣化を主張した減額交渉や、生活に支障のない範囲での分割払いの相談は、入居者が持つ正当な権利です。この記事では、畳や風呂釜などの特有ルールから具体的な交渉術まで、退去費用を最小限に抑え、トラブルを回避するための知識を網羅しています。
こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、運営者の熊坂です。
都営住宅からの退去が決まり、引っ越しの準備を進める中で、原状回復費用に関する不安を抱えている方は非常に多いです。特に、民間賃貸とは異なるルールや慣習が存在するため、検索で「免除」や「払えない」といったキーワードを調べては、情報の少なさに頭を抱えているのではないでしょうか。長年住み慣れた部屋であればあるほど、畳の表替えや襖の張替え、あるいは風呂釜の撤去といった特有の費用がかさみ、請求額が高額になるケースも珍しくありません。
また、親御さんが亡くなられたことによる退去や、経済的な事情で分割払いを希望される場合など、置かれている状況は様々かと思います。この記事では、ガイドラインとの違いや条例に基づく正しい知識を整理し、少しでも負担を減らすための具体的な方法をお伝えします。
- 条例に基づく免除要件と具体的な申請手続き
- 費用が高額で一括払いができない時の分割相談
- 死亡退去時の負担をゼロにする相続放棄の仕組み
- 風呂釜撤去や畳の張替えなど都営独自のルール
都営住宅の原状回復義務は免除される?要件を解説
都営住宅における退去時の原状回復は、民間賃貸住宅とは異なり「東京都営住宅条例」という地方自治体のルールが強く影響します。そのため、一般的に知られている国土交通省のガイドラインがそのまま適用されないケースも多く、入居者にとって厳しい内容になりがちです。ここでは、どのような条件であれば免除が認められるのか、また支払いが困難な場合の救済措置について、実務的な観点から詳しく解説していきます。
退去費用が高額で払えない時の対応

退去時の査定(下見)が終わり、提示された原状回復費用の見積もりが数十万円単位の高額になり、「とてもじゃないが一括では払えない」と途方に暮れてしまうケースは決して珍しくありません。特に、何十年も住み続けた団地の場合、畳、襖、障子といった和室特有の修繕費に加え、場合によっては浴槽の撤去費用などが積み重なり、総額が50万円近くになることもあります。
まず大前提としてお伝えしたいのは、「払えないからといって放置してはいけない」ということです。都営住宅の管理を行っているJKK東京(東京都住宅供給公社)や自治体の窓口は公的な機関ですので、誠意を持って相談すれば、いきなり財産を差し押さえたり、強引な取り立てを行ったりすることは基本的にはありません。しかし、連絡を無視し続ければ法的措置を取らざるを得なくなります。
「払えない」と感じた時点で取るべきアクションは、以下の3ステップです。
- 見積もり内容の精査: その請求額が本当に妥当か、計算ミスや過剰な請求がないかを確認します(詳細は後述します)。
- 支払い意思の表示: 窓口に対し、「支払う意思はあるが、現在の経済状況では一括払いが困難である」と正直に伝えます。
- 減免制度の確認: 自身の状況が、条例で定められた「免除」や「減額」の対象にならないかを確認します。
東京都営住宅条例施行規則には、原状回復義務の免除に関する規定が存在します。しかし、これは単に「お金がない」という理由だけで適用されるものではありません。公的な資金で運営されている以上、公平性の観点から非常に厳格な基準が設けられています。
免除・減額の対象となる主な要件
一般的に、以下のいずれかに該当し、かつ知事の認定を受けた場合に免除や減額が検討されます。
- 災害による損害: 火災、水害、地震などの天災により家財や住居に甚大な被害を受けた場合。
- 長期療養・疾病による困窮: 入居者や同居者が重病にかかり、長期入院などで多額の医療費がかかり、著しく生活が困窮した場合。
- 極度の低所得: 上記のような事情に加え、世帯の収入が一定基準(生活保護水準に近いレベル)以下であること。
このように、「免除」のハードルは極めて高いのが現実です。しかし、全額免除は難しくても、事情を説明することで支払い期限の猶予をもらえたり、分割払いの交渉テーブルについてもらえたりする可能性は十分にあります。「払えない」と諦めてしまう前に、まずは窓口へ足を運び、現状を包み隠さず相談することが解決への第一歩となります。
分割払いの相談と生活保護の扱い
一括での支払いが困難な場合、最も現実的な解決策となるのが「分割納付」です。民間賃貸の管理会社であれば、分割払いを拒否されることも多いですが、都営住宅のような公的住宅の場合、支払い能力のない市民に対して柔軟な対応をしてくれる傾向があります。
分割払いを認めてもらうためには、口頭での約束だけでなく、きちんとした手続きが必要です。通常は、ご自身の収入状況や資産状況を証明する書類(課税証明書や給与明細、預金通帳の写しなど)を提出し、毎月いくらなら確実に支払えるかという「返済計画」を提示することになります。その上で、「誓約書」を取り交わし、毎月決まった額を納付していく形になります。無理な計画を立てて途中で滞納してしまうと、一括返済を求められることになりかねませんので、生活に支障のない範囲で、かつ誠意ある金額を設定することが重要です。
生活保護受給者の場合
生活保護を受給されている方が転居する場合、新しい住居の敷金や引越し費用については「住宅扶助」から支給される制度があります。しかし、旧居(退去する都営住宅)の原状回復費用については、原則として生活保護費からは支給されません。
これは、原状回復費用が「過去の債務(借金)」とみなされるためです。生活保護制度は「最低限度の生活」を保障するものであり、借金の返済に税金を投入することはできないという解釈になります。このため、生活保護受給者であっても、退去費用は自己負担(毎月の保護費のやりくりの中から捻出)しなければならないという、非常に厳しい現実があります。
ただし、自治体によっては独自の貸付制度や、社会福祉協議会による生活福祉資金貸付制度などを利用できる場合があります。また、退去費用があまりに高額で自立更生を阻害すると判断されるようなケースでは、ケースワーカーさんが公社側との交渉をサポートしてくれることもあります。独断で進めるのではなく、必ず担当のケースワーカーに相談し、「退去費用が出ない」ことを前提とした上で、どのように公社側と交渉すべきかアドバイスを仰いでください。公社側も相手が生活保護受給者であれば、回収が困難であることを理解しているため、少額での長期分割に応じてくれる可能性が高くなります。
死亡退去時は相続放棄で負担ゼロに
都営住宅の契約者が亡くなり、退去することになった場合、その原状回復費用は誰が支払うことになるのでしょうか。原則として、故人の財産や負債をすべて引き継ぐ「相続人(配偶者や子供など)」に支払い義務が発生します。親が長年住んでいた部屋で、リフォーム費用や家財道具の処分費用が膨大になり、相続人がその支払いに苦しむケースは後を絶ちません。
もし、故人に預貯金などのプラスの財産がほとんどなく、原状回復費用や未納家賃などのマイナスの財産(借金)の方が多い場合は、「相続放棄」という法的手続きを検討すべきです。
相続放棄とは、家庭裁判所に申し立てを行い、「初めから相続人ではなかった」ことにする手続きです。これが受理されれば、プラスの財産も一切受け取れない代わりに、原状回復費用を含むすべての借金の支払い義務が法的に消滅します。つまり、JKK東京からの請求に応じる必要がなくなるのです。
【重要】遺品整理をしてはいけません
相続放棄を考えている場合、最も注意しなければならないのが「遺品整理」です。善意であっても、故人の部屋の家具を搬出したり、売却したり、形見分けを行ったりすると、民法上の「法定単純承認」とみなされ、借金を承認したことになってしまうリスクがあります。
やってはいけないこと:
- 家具や家電の持ち出し、処分
- 故人の預金からの支払い
- 部屋の解約手続き(※管理行為か処分行為か微妙なため専門家に要相談)
相続放棄を選択する場合、部屋の中にある荷物は基本的に「そのまま」にしておく必要があります。JKK東京に対しては、「相続放棄の手続き中であるため、遺品には一切手を付けられません」と明確に伝えてください。家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届いたら、そのコピーを公社に提出します。
では、残された荷物はどうなるのでしょうか。相続人全員が放棄した場合、最終的には「相続財産清算人」を選任して処理することになりますが、これには予納金などの費用がかかります。実務上は、価値のない家財道具(ゴミ)については、相続人が「残置物放棄書」などを提出し、公社側で処分してもらう(その費用も公社が負担、あるいは敷金から相殺)という運用が行われることもあります。ただし、これはあくまで例外的な対応や交渉の結果であり、法律論だけで押し通せるものではありません。相続放棄が絡む事案は非常にデリケートですので、必ず弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら進めてください。
風呂釜の撤去費用が不要になる制度

昭和40年代から50年代に建設された古い団地では、入居時に「風呂釜と浴槽」を入居者自身が購入して設置し、退去時にはそれを撤去して「コンクリートの箱」の状態に戻すという契約になっていることが多くあります。これを「原状回復」として求められると、撤去・処分費用だけで数万円から10万円近くかかってしまうこともあり、入居者にとっては大きな負担です。
しかし、東京都はこの問題を解消するため、「公社負担取替制度(浴槽・風呂釜の公社管理化)」を進めています。これは一定の条件を満たした場合、古くなった入居者所有の風呂設備を、公社の費用で新しいものに交換し、以降は公社の所有物(設備)として管理するというものです。
この制度の最大のメリットは、設備が公社のものになるため、将来退去する際の「撤去義務」がなくなるということです。つまり、実質的に撤去費用が免除されるのと同じ効果があります。
| 項目 | 入居者設置(従来) | 公社設置(制度利用後) |
|---|---|---|
| 所有権 | 入居者 | 公社(JKK) |
| 故障時の修理費 | 入居者負担 | 公社負担(原則) |
| 退去時の撤去 | 必要(数万円〜) | 不要(0円) |
| 家賃への影響 | なし | 月額500円〜3,000円程度加算 |
ただし、この制度を利用するには「現在使用している風呂釜が故障していること」などの条件が必要な場合があります。また、制度を利用して新しい風呂にする際、「既存の古い風呂釜は自分で撤去してください」と言われるケースもあり、ここで矛盾(撤去費を浮かせたいのに撤去が必要)が生じることがあります。
最近では、高齢者世帯への配慮として、撤去から設置までをスムーズに行えるよう支援する動きもありますが、団地ごとの設備状況や募集時期によって対応が異なります。もし、現在お使いの風呂釜が古くなってきているなら、壊れる前に管轄の窓口センターへ相談し、「公社管理の風呂に切り替えられないか」を確認することをおすすめします。これができれば、退去時の大きな出費を一つ減らすことができます。
畳や襖の修繕義務と費用の負担区分
都営住宅の退去トラブルで最も多いのが、畳(たたみ)と襖(ふすま)に関する費用負担です。民間賃貸住宅、特に東京都内の物件では、「東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)」や国のガイドラインが浸透しており、畳の表替えや襖の張替えは、入居者が汚したり破ったりしていない限り、次の入居者獲得のためのグレードアップとして「貸主負担」となるのが一般的です。
しかし、都営住宅ではこの常識が通用しないことが多々あります。「入居のしおり」や契約書には、「畳の表替え、襖の張替えは入居者負担とする」と明記されていることがほとんどだからです。
行政側の理屈としては、「格安の家賃で提供しているのだから、消耗品の交換などの小修繕は入居者が自分で行ってください(公営住宅法第21条の考え方)」というものです。そして、「退去時に畳を新品同様にして返すこと」が、実質的な原状回復義務として課されています。
都営住宅における畳・襖の判定基準
- 畳(Tatami): 原則として、日焼けによる変色であっても「表替え」の費用を請求されます。ただし、入居期間が非常に短い場合や、入居時から古かったことが証明できる場合は交渉の余地があります。
- 襖・障子: 破れていなくても、経年劣化による変色や汚れがあれば張替え費用(全額)を請求されるのが通例です。
- 費用相場: 畳1枚あたり4,000円〜6,000円程度、襖1面あたり3,000円〜4,000円程度が目安です。6畳2間なら畳だけで5〜7万円の出費になります。
「きれいに使っていたのに納得できない」と感じる方も多いでしょう。実際、裁判になれば消費者契約法などの観点から入居者が勝てる可能性もありますが、数万円のために裁判を起こすのは現実的ではありません。
ここで重要なのは、「入居時の状況」を主張することです。もし入居した時に畳が新品ではなく、すでに日焼けしていたり擦り切れていたりした場合は、その旨を強く主張してください。「入居時に新品で提供された利益を享受していないのに、退去時に新品にして返す義務はない」という論理は、交渉において一定の説得力を持ちます。入居時のチェックリストや写真が残っていれば強力な証拠になります。
都営住宅の原状回復費用を免除・減額する交渉知識
ここまでは、条例や制度としての「枠組み」について解説してきました。ここからは、実際の退去査定(下見)の現場で、どのように交渉すれば費用を抑えられるか、より実践的なテクニックと知識についてお話しします。公社側の担当者(または委託業者の担当者)も人間ですので、ただ感情的に怒るのではなく、論理的な根拠を持って話すことで、減額を引き出せる可能性があります。
原状回復ガイドラインは適用されるか
国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、賃貸トラブルのバイブルとも言える存在です。このガイドラインでは、「経年劣化(時間が経つことで自然に古くなること)」や「通常損耗(普通に暮らしていてできる傷や汚れ)」の修繕費用は、家賃に含まれているため貸主が負担すべきとされています。
では、都営住宅でこのガイドラインは適用されるのでしょうか? 答えは「基本的には適用されるべきだが、特約(条例)が優先される部分がある」という玉虫色の状態です。
2020年の民法改正により、原状回復のルールが法律で明文化されました。都営住宅といえども、民法の適用外ではありません。したがって、壁紙(クロス)やクッションフロア(床材)などについては、ガイドラインの考え方が適用されやすい傾向にあります。一方で、前述した畳や襖については、条例や契約書での「特約」が優先され、入居者負担とされるのが現状です。
交渉のスタンスとしては、「都営住宅だから全部入居者負担が当たり前」という担当者の態度に対して、「民法改正やガイドラインの趣旨に照らして、この請求はおかしいのではないか?」と疑問を投げかけることが重要です。特に、壁紙の日焼けや家具の設置跡(凹み)まで請求された場合は、強く反論すべきポイントです。
退去時の修繕費用相場と見積もり

適正な交渉を行うためには、修繕費用の「相場」を知っておく必要があります。JKK東京や指定業者が提示してくる単価は、市場価格と比べて極端に高いわけではありませんが、決して安くもありません。「一式」などのドンブリ勘定ではなく、単価と数量が明記された詳細な見積もりを出してもらうことが鉄則です。
| 項目 | 単位 | 目安単価(円) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 畳表替え | 1畳 | 4,000 〜 6,000 | グレードによるが都営は普及品が主 |
| 襖張替え | 1面 | 3,000 〜 4,500 | 両面の場合は×2 |
| 障子張替え | 1枚 | 2,000 〜 3,500 | 枠の補修が必要な場合は別途 |
| 壁紙(クロス) | 1㎡ | 1,000 〜 1,500 | 量産品クロスの単価 |
| ハウスクリーニング | 1戸 | 30,000 〜 60,000 | 広さ(1DK〜3DK)による |
見積書を受け取ったら、以下のポイントをチェックしてください。
- 施工範囲は適切か: 汚れがあるのは壁の一部分だけなのに、部屋全体の壁紙張替え費用が計上されていないか(※色合わせのために一面張り替えは許容範囲ですが、全室張り替えは過剰です)。
- ㎡数は正しいか: 実際の面積よりも広く計算されていないか。
- 二重請求はないか: 「クリーニング一式」の中に、エアコン洗浄や換気扇清掃が含まれているのに、別途項目で計上されていないか。
もし相場より明らかに高い項目があれば、「民間の業者に見積もりを取ったらもっと安かった。指定業者でなければならない法的根拠はあるのか?」と質問してみるのも一つの手です(ただし、都営住宅の場合は指定業者や仕様が決まっていることが多いため、業者変更は難しいケースが多いですが、価格交渉の材料にはなります)。
ハウスクリーニング代の請求基準

退去時に「ハウスクリーニング費用」を請求されるかどうかは、契約内容と部屋の使用状況によって異なります。
近年の契約では、退去時に専門業者によるクリーニング費用を入居者が負担する特約が入っているケースが増えています。この場合、いくら自分でピカピカに掃除しても、規定のクリーニング代(3万〜6万円程度)は請求されます。これは契約上の義務として諦めざるを得ない部分が多いです。
一方、古い契約などでクリーニング特約がない場合、原則として入居者は「掃除をして返せば良い」ことになっています。しかし、ここで問題になるのが掃除のレベルです。台所の油汚れがベトベトに残っていたり、浴室にカビが繁殖していたり、タバコのヤニで全体が黄ばんでいたりする場合、これは「善管注意義務違反(管理が悪くて汚した)」とみなされ、清掃費用を請求されます。
自分で掃除して節約するポイント
クリーニング特約がない場合、徹底的に掃除をすることで数万円の節約になります。特に査定員の心証を左右するのは以下の箇所です。
- 換気扇(レンジフード): 油汚れを完全に落とす。
- 浴室・トイレ: 水垢やカビ、尿石を除去する。
- 窓ガラス・サッシ: レールの砂埃まで取る。
「ここまで綺麗なら業者の清掃は不要ですね」と査定員に言わせれば勝ちです。退去立会い(査定)の日までに、可能な限り自力で磨き上げておくことを強くおすすめします。
経年劣化による壁紙の減価償却
壁紙(クロス)やクッションフロアに関しては、最も強力な交渉カードとして「減価償却(げんかしょうきゃく)」の概念が使えます。これは、物の価値は時間が経つにつれて減っていくという考え方です。
国土交通省のガイドラインでは、壁紙の耐用年数は「6年」とされています。つまり、新品の壁紙に張り替えてから6年経過すると、その価値は会計上「1円(ほぼゼロ)」になるということです。
負担割合の計算式
入居者の負担額 = 修繕費用 × (耐用年数 − 入居年数)÷ 耐用年数
例えば、あなたが都営住宅に6年以上住んでいたとします。退去時に子供が壁に落書きをしてしまった場合でも、壁紙の価値はすでにゼロになっているため、理論上は張替え費用(材料費や工賃)を負担する必要はありません(※ただし、落書きを消すための作業費など、一部の費用を請求される可能性はあります)。
もし3年で退去する場合であれば、価値は半分(50%)残っているため、費用の半額を負担することになります。査定員が「壁が汚れているので張替えです。全額負担してください」と言ってきたら、「私はここに10年住んでいます。ガイドラインの耐用年数を過ぎているので、壁紙の残存価値は無いはずです。なぜ全額負担なのですか?」とはっきり主張してください。都営住宅側もこの理屈は理解していますので、正当な主張であれば減額に応じることが多いです。
ただし、タバコのヤニ汚れ(全室変色)やペットによる柱の傷、結露を放置して腐らせた場合などは、「通常の使用を超える汚損(特別損耗)」や「善管注意義務違反」とみなされ、減価償却が考慮されずに全額請求されるリスクがあるため注意が必要です。
納得できない場合のトラブル相談先
ここまで解説した知識を駆使して交渉しても、JKK東京や管理センターの担当者が高圧的であったり、こちらの主張を一切聞き入れてくれなかったりすることもあります。当事者同士での話し合いが平行線をたどった場合は、第三者機関に相談しましょう。
決して一人で抱え込まず、以下の窓口を活用してください。
- 東京都消費生活総合センター(電話:03-3235-1155): 賃貸トラブルの専門知識を持った相談員が、契約内容や請求の妥当性についてアドバイスをくれます。場合によっては、あっせん(仲介)を行ってくれることもあります。
- JKK東京 お客さまセンター(電話:0570-03-0072): 現場の査定員ではなく、本部の窓口に事情を説明し、再査定を依頼する方法です。「現場の説明に納得がいかない」と具体的に伝えましょう。
- 法テラス(日本司法支援センター): 経済的に余裕がない場合、無料で弁護士のアドバイスを受けられる可能性があります。法的な観点からの対処法を知りたい場合に有効です。
相談する際は、「いつ」「誰が」「何を言ったか」のメモや、見積書、部屋の写真(重要!)などの証拠を必ず手元に用意しておいてください。
都営住宅の原状回復と免除のまとめ
都営住宅の原状回復は、民間のルールと行政のルールが入り混じる複雑な領域です。最後に、この記事の要点を整理します。
この記事の重要ポイント
- 免除は簡単ではない: 災害や病気による困窮、相続放棄など、条件は非常に限定的です。
- 払えないなら相談: 無視はNG。分割払いの相談は柔軟に対応してもらえる可能性が高いです。
- 畳・襖は覚悟が必要: 条例により入居者負担が原則。ただし「入居時から古かった」証明ができれば交渉余地あり。
- 壁紙は6年で価値ゼロ: 長く住んでいるなら、経年劣化(減価償却)を主張して費用を圧縮しましょう。
- 風呂釜制度の活用: 古い風呂釜は、壊れる前に公社管理への切り替えを検討してください。
「都営だから仕方ない」と諦めて言い値で支払う前に、まずは知識で武装し、一つ一つの項目を精査してみてください。正当な権利を主張し、誠意を持って相談することで、経済的な負担を少しでも軽くできるはずです。