
こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、運営者の熊坂です。
退去の時期が近づくと、どうしても不安になってしまうのが原状回復費用ですよね。ネットで調べると高額請求の事例なんかも出てきて、怖くなってしまう気持ち、痛いほどよくわかります。特に、長年住んだ部屋を出る時、壁紙の汚れや床の傷について、大家さんや管理会社から言われるがままに請求されたらどうしよう、と心配されている方も多いのではないでしょうか。
でも、安心してください。実は、私たち借主には法律やガイドラインによって守られた強力な権利があります。それが今回詳しく解説する、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインと、そこから導き出される負担割合表という考え方です。これを知っているだけで、退去費用の請求額が数万円、場合によっては数十万円も変わる可能性があるんです。
この記事では、国土交通省のガイドラインに基づいた正しい知識と、実際に使える負担割合の計算方法、そして各設備の耐用年数について、専門用語を使わずにわかりやすくお話ししていきます。これからお伝えする内容をしっかりと理解して、納得のいく形でお部屋を退去できるよう準備していきましょう。
- 原状回復ガイドラインに基づく借主の正しい負担割合がわかります
- 壁紙やフローリングなど設備ごとの耐用年数と残存価値を知ることができます
- 入居年数に応じた負担額のシミュレーションができるようになります
- 高額請求などのトラブルを回避するための具体的な対策が身につきます
原状回復ガイドラインと負担割合表の基礎知識
まずは、私たちが絶対に知っておくべき「原状回復」の基本的なルールと、負担割合を決めるための土台となる考え方について解説していきます。ここを理解していないと、管理会社からの見積書が適正なのかどうかの判断ができません。法律用語はなるべく避けて、噛み砕いてお話ししますね。
経年劣化による借主負担なしの原則とは

「原状回復」という言葉を聞くと、なんとなく「入居した時と全く同じピカピカの状態に戻して返すこと」だと思っていませんか?実はこれ、非常によくある誤解なんです。もし管理会社の担当者が「借りた時の状態に戻すのがルールですから」なんて言ってきたら、それはちょっと警戒した方がいいかもしれません。
2020年の民法改正によって、原状回復の定義がより明確になりました。現在のルールでは、「通常の使用による損耗(通常損耗)」や「時間の経過による変化(経年変化)」については、借主は原状回復の義務を負わないとはっきり定められています。
どういうことかと言うと、私たちが毎月支払っている家賃の中には、すでに建物の修繕費や将来のメンテナンス費用が含まれているという考え方が採用されているんです。つまり、普通に生活していて自然に汚れてしまった壁紙や、日焼けして色あせた畳などを退去時に直す費用を請求されるのは、「家賃で払った分をもう一度払え」と言われているのと同じで、いわゆる「二重取り」になってしまうわけですね。
もちろん、タバコを吸って部屋中をヤニだらけにしてしまったり、不注意で壁に穴を開けてしまったりした場合は別です。これらは「故意・過失」にあたるため、借主が修理費用を負担しなければなりません。しかし、あくまで負担するのは「壊した部分の価値」だけであって、新品にするための全額を払う必要はないというのが、このガイドラインの肝になります。
ここがポイント!
- 「原状回復」=「入居時の状態に戻す」ではない!
- 普通に暮らしてできた汚れや傷(通常損耗)は、家賃に含まれているので負担不要。
- 日焼けによる変色や家具の設置跡などは、基本的に貸主(オーナー)負担です。
この「通常損耗」と「経年変化」の範囲を正しく理解しておくことが、不当な請求から身を守るための第一歩です。次の入居者のために部屋を綺麗にするリフォーム費用は、基本的には大家さんが負担すべきものだという原則を、まずはしっかりと心に留めておいてください。
設備の耐用年数と減価償却の仕組み
さて、ここから少しだけ数字のお話になりますが、非常に重要なのでついてきてくださいね。「減価償却(げんかしょうきゃく)」という言葉、聞いたことありますか?ビジネスや経理の世界でよく使われる言葉ですが、実は賃貸の原状回復においても、この考え方がめちゃくちゃ重要なんです。
建物や部屋の設備(壁紙、エアコン、カーペットなど)は、新品の時が一番価値が高く、時間が経つにつれてその価値はどんどん下がっていきます。これを「減価償却資産」と呼びます。国土交通省のガイドラインでは、この「時間の経過とともに減少した価値」を考慮して、借主の負担額を決めるべきだとしています。
例えば、あなたがうっかり壁紙を破ってしまったとしましょう。その壁紙が張り替えられてからすでに何年も経っている場合、その壁紙の価値は新品の時と比べてかなり下がっていますよね。それなのに、退去時に「張り替えるから新品の費用を全額払ってください」と言われたらどう思いますか?古い壁紙を壊しただけなのに、新品の壁紙をプレゼントすることになってしまいます。これは明らかにおかしいですよね。
そこで登場するのが「耐用年数」という概念です。これは「その設備が経済的に価値があるとされる期間」のことを指します。ガイドラインでは、設備ごとにこの耐用年数が決められています。
主な設備の耐用年数(ガイドライン目安)
- 壁紙(クロス)、クッションフロア、カーペット:6年
- 流し台、エアコン:6年〜(種類による)
- 畳床、フローリング:建物の耐用年数に準拠(長期間)
特に重要なのが「6年」という数字です。多くの内装材はこの6年を基準に考えられています。この期間を経過すると、その設備の価値は帳簿上「1円(備忘価額)」になるとされています。つまり、古い設備を壊してしまっても、その価値がほとんど残っていなければ、借主が高額な弁償をする必要はないということなんです。この仕組みを知っているだけで、交渉の余地が大きく広がりますよ。
負担割合の計算式と減額シミュレーション

では、具体的に私たちが負担すべき金額はどのように計算されるのでしょうか。ここでは、実際に使われている計算式と、それを使ったシミュレーションをご紹介します。「難しそう…」と身構えなくても大丈夫です。とてもシンプルなロジックなので、すぐに理解できるはずです。
基本となる計算式は以下の通りです。
借主負担額の計算式借主負担額 = 修繕費用の総額 × (耐用年数 − 経過年数) ÷ 耐用年数
例えば、あなたが6万円の修理費用がかかる壁紙(耐用年数6年)を、入居から3年で汚してしまい、張り替えることになったとします。この場合、経過年数は3年ですね。
計算式に当てはめると、 60,000円 ×(6年 − 3年)÷ 6年 = 30,000円 となり、あなたの負担額は修理費の半額である3万円で済むことになります。残りの3万円は経年劣化分として、大家さんの負担となります。
これがもし、入居から5年経過していたらどうなるでしょうか。 60,000円 ×(6年 − 5年)÷ 6年 = 10,000円 なんと、負担額は1万円まで下がります。このように、長く住めば住むほど、私たちが負担すべき割合は減っていくんです。
注意点:入居時の状態も考慮される
この計算は「入居時に新品だった場合」を想定しています。もし入居時にすでに壁紙が古かった場合は、スタート時点での価値が低い状態から計算されるため、負担割合はさらに低くなる可能性があります。逆に入居時に新品交換されていた場合は、そこからのカウントになります。
この計算式は、見積もりの金額が妥当かどうかをチェックする際の最強の武器になります。「全額負担」と書かれた見積書が届いたら、まずはこの計算式を思い出して、「入居期間分の減価償却は考慮されていますか?」と質問してみましょう。
壁紙の耐用年数は6年で価値が1円になる
原状回復トラブルの中で、圧倒的に多いのが「壁紙(クロス)」に関するものです。部屋の中で一番面積が広い分、どうしても汚れや傷が目立ちやすいですよね。でも、先ほど少し触れた通り、壁紙に関しては借主に非常に有利なルールが存在します。
国土交通省のガイドラインにおいて、壁紙(クロス)の耐用年数は6年と明確に定められています。そして、6年経過時点での残存価値は「1円」となる、というグラフが示されているのです。これは、いわゆる「6年ルール」とも呼ばれ、私たち借主を守るための重要な防波堤となっています。
具体的に言うと、もしあなたが同じ部屋に6年以上住み続けていたなら、退去時に壁紙が日焼けしていようが、うっかり画鋲の穴を少し多めに開けてしまっていようが、あるいはタバコのヤニで変色していようが、壁紙自体の価値はすでに償却されていると考えられます。そのため、理論上は壁紙の「材料費」などの価値分については、請求される根拠がないということになるのです。
「えっ、じゃあ6年以上住めば、壁紙をビリビリに破いてもタダってこと?」 そう思われるかもしれませんが、ここは少し注意が必要です。価値が1円になるといっても、「壊してもいい権利」が得られるわけではありません。物理的に破いたり、落書きをしたりといった「故意・過失」がある場合は、その行為自体に対する修繕の手間賃(施工費・人件費)などは請求される可能性があります。
しかし、それでも「新品に張り替える費用全額」を請求されることは、ガイドラインに照らし合わせれば不当と言えます。「6年以上住んでいるので、壁紙の残存価値は無いはずですよね?」と主張することで、請求額を大幅に減額できるケースは非常に多いです。特に、クロスの張り替え費用が高額で困っている方は、まずはご自身の入居期間を確認してみてください。
クロスの張り替え費用と負担区分の判定
壁紙(クロス)の張り替え費用を請求された際、もう一つ重要なのが「どこまで張り替えるか」という範囲の問題です。ここでもガイドラインには明確な基準があります。
基本的には、「毀損(きそん)させた箇所を含む一面分」までの張り替え費用を借主負担とするのが妥当とされています。例えば、壁の真ん中に小さな傷をつけてしまった場合、その傷の部分だけを補修するのは技術的に難しく、色合わせの問題もあるため、その壁一面を張り替えることになります。これはやむを得ない負担と言えるでしょう。
しかし、トラブルになりやすいのは、管理会社が「一面だけ張り替えると他の面と色が合わなくておかしいから、部屋全体(4面とも)を張り替えます」と言ってきた場合です。これをそのまま受け入れてはいけません!
色合わせや統一感のために、傷のない他の面まで張り替えるのは、あくまで物件の価値を高めるための「グレードアップ」や、次の入居者を募集するための対策に含まれます。したがって、傷のない面の張り替え費用は、原則として貸主(大家さん)が負担すべきものなのです。
| 損傷の原因 | 負担区分 | 備考 |
|---|---|---|
| 画鋲・ピンの穴 | 貸主負担(A区分) | 下地ボードの張り替えが不要な程度の穴は、通常の生活で必要なものとみなされます。 |
| 家具裏の電気焼け | 貸主負担(A区分) | 冷蔵庫やテレビの後ろの黒ずみ(静電気焼け)は自然現象なので借主責任ではありません。 |
| 釘・ネジの穴 | 借主負担(B区分) | 下地ボードまで貫通するような深い穴は、通常の使用を超えると判断されます。 |
| タバコのヤニ・臭い | 借主負担(B区分) | クリーニングで落ちない汚れや臭いは、借主の責任で張り替えとなるケースが多いです。 |
| ペットの引っかき傷 | 借主負担(B区分) | ペット飼育可の物件でも、傷や臭いの修繕費は実費請求されるのが一般的です。 |
このように、損傷の原因が「自分のせい(B区分)」なのか、「普通に生活していただけ(A区分)」なのかをしっかり見極めることが大切です。見積書に「クロス張り替え一式」と大雑把に書かれていたら、必ず明細を求め、「どの面の、どの傷に対する請求なのか」を確認するようにしましょう。
入居年数別の負担割合早見表の活用法
ここまで解説してきた「耐用年数」と「経過年数」の関係を、パッと見てわかるように早見表にまとめました。この表は、耐用年数が6年の設備(壁紙、クッションフロア、カーペットなど)に適用できるものです。
ご自身の入居年数を当てはめて、今の負担割合がどのくらいなのかチェックしてみてください。
| 入居期間(経過年数) | 借主の負担割合(目安) | 状態のイメージ |
|---|---|---|
| 入居直後(〜1年未満) | 約 83% 〜 100% | ほぼ新品価値。過失で壊せば高額負担。 |
| 1年 〜 2年未満 | 約 67% 〜 83% | まだ価値は高い。 |
| 2年 〜 3年未満 | 約 50% 〜 67% | 価値は徐々に減少。 |
| 3年(折り返し地点) | 50% | ちょうど半額負担になる目安。 |
| 4年 〜 5年未満 | 約 17% 〜 33% | 負担額はかなり軽くなる。 |
| 5年 〜 6年未満 | 約 1% 〜 17% | もう少しで償却完了。 |
| 6年以上 | 実質 0%(1円) | 価値は償却済み。原則負担なし。 |
早見表の活用テクニック
退去の立ち会いの際に、この表の数字を頭に入れておくだけで対応が変わります。例えば入居4年目で壁紙を汚してしまったと指摘されたら、「ガイドラインの負担割合表によれば、4年経過しているので負担は3割程度ですよね?」と切り出してみましょう。これだけで、相手に「この入居者は知識があるな、適当なことは言えないな」と思わせる効果があります。
ただし、この表はあくまで「過失があって張り替えることになった場合の負担割合」です。そもそも過失がない(通常損耗の)場合は、負担割合以前に「負担ゼロ」が原則ですので、そこは混同しないように気をつけてくださいね。
原状回復ガイドラインの負担割合表と部位別詳細
前半では基本的な考え方や壁紙について詳しく見てきましたが、お部屋には他にも床やエアコン、水回りなど、様々な設備がありますよね。ここからは、壁紙以外の主要な部位についても、ガイドラインでの扱いや注意点を深掘りしていきます。特に床材の違いは金額に大きく影響するので要チェックです。
フローリングの傷は経年考慮されるか

ここが今回の記事の中で、最も注意していただきたいポイントの一つです。実は、フローリングの扱いは壁紙とは全く異なります。
多くの賃貸物件で採用されている複合フローリングは、耐久性が高いため、壁紙のように「6年で価値がなくなる」とはみなされません。建物の構造そのもの(木造なら22年、鉄筋コンクリートなら47年など)と同じくらい長く使えるものとして扱われることが多いのです。
つまり、フローリングに深い傷をつけてしまって「部分補修(リペア)」をする場合、経過年数による減価償却は考慮されないのが一般的です。「10年住んだからフローリングの傷もチャラにしてよ」という主張は、残念ながら通用しづらいのが現実です。
フローリングの部分補修と張り替えの違い
・部分補修(リペア): 傷を樹脂で埋めたり塗装したりして直す方法。これは「補修費用の全額(実費)」が借主負担となります。経過年数は関係ありません。 ・全面張り替え: フローリング全体を張り替えるような大規模な工事が必要な場合(広範囲の水漏れ腐食など)に限っては、経過年数を考慮した負担割合が適用される可能性がありますが、通常の退去でここまで求められることは稀です。
ただし、あくまで負担するのは「借主の不注意でつけた傷(落下痕やひっかき傷)」だけです。最初からあった傷や、普通に生活していてできる微細なスリ傷、日焼けによる変色などは、もちろん貸主負担(A区分)となります。退去時のチェックでは、それが「いつ、どうやってついた傷なのか」が争点になりやすいので、入居時のチェックリストや写真が非常に重要になってきます。
クッションフロアや畳・襖の交換ルール
フローリングと違って、柔らかい素材の床材や和室の建具は、また別のルールが適用されます。混同しやすいので整理しておきましょう。
【クッションフロア(CF)】 洗面所やトイレ、キッチンの床によく使われているビニール製の床材です。これは壁紙と同じく「耐用年数6年」で計算されます。つまり、6年以上住んでいれば、家具の跡がついていようが多少汚れていようが、残存価値は1円となります。これは借主にとって嬉しいポイントですね。
【畳(たたみ)】 畳は「畳表(表面のイ草部分)」と「畳床(中身の芯)」に分けて考えます。 ・畳表: 「消耗品」扱いとなり、経過年数は考慮されません。汚したり破いたりしたら、その枚数分の表替え費用を負担します。ただし、日焼けによる変色だけであれば貸主負担です。 ・畳床: 耐用年数6年で検討されることもありますが、通常の使用でダメになることは稀です。
【襖(ふすま)・障子】 これらも畳表と同様に「消耗品」扱いです。経過年数は考慮されず、破ったり汚したりした場合は、張り替え費用を負担する必要があります。ただし、1枚単位での負担が原則で、汚していない他の枚数までセットで張り替える費用を負担する義務はありません。
ポイントまとめ
- クッションフロアは6年で価値がなくなる(壁紙と同じ)。
- 畳や襖は「消耗品」なので、古くても汚したら張り替え費用がかかる。
- ただし、自然な日焼けのみなら負担しなくてOK。
エアコンなどの設備機器と通常損耗の扱い

「エアコンから変な匂いがする」「内部洗浄代を請求された」というのもよくある相談です。設備機器としてのエアコンや給湯器、インターホンなども、基本的には耐用年数6年(ものによってはそれ以上)で計算されます。
ここで重要なのは、エアコンの内部洗浄(クリーニング)費用です。ガイドラインの原則では、「次の入居者のために行うエアコン洗浄は貸主負担」とされています。借主がフィルター掃除などの日常的な手入れをしていれば、内部の分解洗浄まで行う義務はないのです。
ただし、喫煙によるヤニ汚れや、ペットの臭いが内部に染み付いている場合は別です。これは借主の使用方法に問題があった(通常損耗を超える)とみなされ、クリーニング費用を請求される正当な理由になります。
また、最近の契約では「特約」で「退去時のエアコンクリーニング費用は借主負担とする」と決められていることが非常に多いです。契約書にこの特約があり、金額が明記されている場合は、ガイドラインよりも契約内容が優先されるケースが多いので注意が必要です。
退去時のクリーニング特約と費用の相場
エアコンだけでなく、部屋全体の「ハウスクリーニング費用」についても触れておきましょう。これも本来、ガイドラインの原則では「借主が通常の掃除をして返せば、専門業者によるクリーニング代は貸主負担」となっています。
しかし、皆さんの賃貸借契約書を見てみてください。「退去時にハウスクリーニング費用として〇〇円を支払う」といった特約が入っていませんか?
実務上、この「クリーニング特約」は有効と判断されることが多いです。ただし、無条件に有効なわけではありません。以下の条件を満たしている必要があります。
- 契約書に具体的な金額(または算出根拠)が明記されていること。
- 契約時にその内容について十分な説明を受け、納得して署名していること。
- 金額が相場に比べて不当に高額でないこと。
もし契約書に「実費を負担する」としか書かれておらず、退去時に相場を大きく超える(例えばワンルームで10万円など)請求が来た場合は、消費者契約法に基づいて無効を主張できる可能性があります。
クリーニング費用の相場(目安)
- ワンルーム〜1K:2.5万円 〜 4万円程度
- 1LDK〜2DK:3万円 〜 6万円程度
- ファミリータイプ:5万円 〜 9万円程度
この相場感を知っておくだけでも、見積もりを見た時の判断材料になります。「相場より明らかに高いですが、どのような作業内容なんですか?」と質問できるようにしておきましょう。
国交省ガイドラインに基づくトラブル対策
いよいよ退去、という時にトラブルにならないためには、事前の準備が全てです。国交省のガイドラインを味方につけて、賢く立ち回るための対策をまとめました。
1. 入居時のチェックリストや写真を確保する 退去時のトラブルのほとんどは「元からあった傷か、あなたがつけた傷か」の水掛け論です。入居時に撮った写真や、管理会社に提出した現況確認書(チェックリスト)の控えがあれば、最強の証拠になります。もし今から入居するなら、日付入りで部屋中の写真を撮っておくことを強くおすすめします。
2. 退去立ち会いは必ず行う 忙しいからといって、管理会社任せにして鍵だけ返すのは危険です。必ず現地で立ち会いを行い、指摘された傷についてその場で確認しましょう。「ここは入居時からありました」「これは通常損耗の範囲内だと思います」と、その場で意見を伝えることが大切です。
3. その場でサインをしない 立ち会いの現場で「精算書」や「承諾書」にサインを求められても、内容に少しでも納得がいかなければ、絶対にその場でサインしてはいけません。「一度持ち帰って検討します」「家族と相談します」と言って持ち帰りましょう。サインをしてしまうと、後から「やっぱりおかしい」と言っても覆すのが非常に難しくなります。
原状回復ガイドラインと負担割合表の総括
今回は、原状回復のガイドラインと負担割合表について、少し踏み込んで解説してきました。最後に改めて重要なポイントをおさらいしておきましょう。
まず、原状回復とは「借りた時の状態に戻すこと」ではなく、「通常損耗や経年変化は考慮しなくていい」というルールであること。そして、壁紙などの多くの設備には「耐用年数(6年)」があり、長く住めば住むほど、私たちの負担割合は減っていく(最後は1円になる)という仕組みがあることです。
この知識を持っているかどうかで、退去時の交渉力は天と地ほどの差が出ます。管理会社や大家さんは不動産のプロですが、彼らが提示してくる見積もりが常に正しいとは限りません。中には、無知につけ込んでガイドラインを無視した請求をしてくる業者も残念ながら存在します。
そんな時、この記事で紹介した知識や計算式、そして「ガイドラインではこうなっていますよね?」という一言が、あなたのお金と権利を守る盾になります。もちろん、自分に過失がある場合は誠実に支払う必要がありますが、払わなくていいものまで払う必要は全くありません。
これから退去手続きを進める方が、不当な請求に泣き寝入りすることなく、気持ちよく新生活をスタートできることを心から願っています。もし不安なことがあれば、消費生活センターなどの専門窓口に相談するのも一つの手ですよ。頑張ってくださいね!
※本記事は2025年時点での一般的な情報および国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいた解説です。個別の契約内容や特約、物件の状況によって判断が異なる場合があります。法的なトラブル解決に関しては、弁護士や司法書士等の専門家にご相談ください。