
こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、宅地建物取引士の熊坂です。遠方からの引っ越しや、仕事が忙しくて不動産屋の店舗になかなか足を運べないという方にとって、スマホやパソコンのビデオ通話を使って契約手続きができる仕組みは本当に便利ですよね。最近はオンラインでお部屋探しを完結させたいというご要望が非常に多く、IT重説の賃貸の流れやスマホでのやり方、さらには録画の有無や必要書類がいつ届くのかといった具体的な手続きについて、たくさんのご質問をいただきます。初めてのオンライン契約だと、途中で通信が切れてしまったらどうなるのか、所要時間はどのくらいかかるのか、事前の接続テストは必要なのかなど、見えない不安を抱えてしまうのも無理はありません。この記事では、現役の宅建士である私が、オンラインでの重要事項説明から電子契約までの具体的なステップや、トラブルなくスムーズに手続きを進めるためのコツを、現場のリアルな実情を交えながら分かりやすくお伝えしていきます。オンラインの非対面取引であっても、しっかりとした事前準備とポイントを押さえておけば、店舗での契約以上にリラックスして安全にお取引を進めることができますので、ぜひ最後までお付き合いください。
- IT重説の基本的な仕組みと法律上のルール
- スマホやパソコンの準備から当日の具体的な手順
- 通信トラブルや録画に関する現場のリアルな注意点
- 電子契約を活用してペーパーレスで契約を完了させる方法
宅建士が解説するIT重説の賃貸の流れ
ここからは、実際にオンラインで重要事項説明(IT重説)を受ける際の具体的なステップについて、現場で実務を行っている宅建士の視点から詳しく解説していきます。IT重説の賃貸の流れは、大きく分けて事前の準備段階と当日の本番、そしてその後の契約手続きというフェーズに分かれます。まずは全体像をしっかりと把握していきましょう。
やり方と法的要件の基本知識
まず大前提として、不動産の賃貸借契約を結ぶ前には、宅地建物取引士が借主に対して「重要事項説明」を行うことが法律(宅地建物取引業法)で厳格に義務付けられています。これまでは、不動産会社の店舗などで直接対面して説明することが絶対条件でしたが、現在では一定の法的要件を満たせば、ビデオ通話などを用いた「IT重説」が認められています。
法律上、IT重説を適法に実施するためには、主に以下の4つの要件をクリアしなければなりません。
- 双方向でやり取りできる映像と音声の環境があること
- 重要事項説明書などの必要書類が事前に送付されていること
- 説明開始前に、顧客の環境や書類の準備状況を確認すること
- 宅建士が提示する宅地建物取引士証を画面越しに視認できること
法律ではこのように定められていますが、実際の現場ではどうでしょうか。実は、この「双方向のやり取りができる環境」というのが、意外とクセモノなんです。法律の文字面だけを見ると「テレビ電話ができればOK」と思われがちですが、不動産の重要事項説明は、お金や権利に関する非常にデリケートな内容を含みます。そのため、途中で映像がカクカクしたり、音声が途切れてしまったりすると、法律が求める「十分な説明」が成立しなくなってしまうリスクがあるんですね。
私が担当した過去の案件でも、お客様が外出先からスマートフォンで参加された際、周囲の雑音で音声が聞こえにくかったり、電波が不安定で何度も接続が切れたりして、やむを得ず途中で説明を中断したことが何度もあります。法律上、通信状況が悪化した場合は「直ちに説明を中断し、環境が回復してから再開する」という厳格なルールがあるため、不動産会社側も非常に神経を使っている部分なのです。
だからこそ、IT重説は単なる「オンラインのおしゃべり」ではなく、対面と同等の質が求められる公的な手続きであるという認識を持っていただくことが重要かなと思います。もちろん、難しく考える必要はありません。ご自宅の静かな環境で、Wi-Fiにしっかりと繋がった状態であれば、ほとんどの場合はスムーズに完了します。後ほど詳しくお話ししますが、事前にしっかりとテストを行うことで、これらの不安の大半は解消できます。
なお、ここで解説している法律上の要件や手続きの基準は、あくまで一般的な目安としての情報です。国土交通省のガイドラインなどは随時更新される可能性がありますので、正確な最新情報は国土交通省の公式サイト等をご確認ください。また、ご自身の契約に関する最終的な判断や疑問点は、必ず担当の不動産会社や専門家にご相談いただくようお願いいたします。
必要書類の送付と事前の同意

IT重説を行うためには、当日いきなりビデオ通話を繋げば良いというわけではありません。法律の要件にもあった通り、事前に手元に「重要事項説明書」などの必要書類が届いていることが絶対条件となります。画面共有だけで資料を見せるのはNGで、お客様ご自身が手元で書類をめくりながら確認できる状態を作らなければならないんですね。
この事前準備のステップにおいて、まずは不動産会社から「IT重説を実施することへの同意」を求められます。これは、オンラインで説明を受けるために必要な機器(スマホやパソコン)や通信環境が整っているか、そしてご本人がそのやり方に納得しているかを確認するためのプロセスです。同意書を郵送でやり取りすることもありますし、最近ではオンラインのフォームで同意をいただくケースも増えています。
同意が確認できた後、いよいよ書類が送付されます。従来は、分厚い書類一式がレターパックなどでご自宅に郵送されていました。この場合、郵送にかかる日数を考慮して、重説の実施日を少し先延ばしに設定する必要がありました。しかし、最近の現場のリアルな状況をお伝えすると、電子契約システムを用いたPDFデータの事前送付が急激に主流になってきています。
電子交付の場合、不動産会社からURLが記載されたメールが届き、そこからクラウド上の書類にアクセスして閲覧する形になります。これなら、郵送のタイムラグがなくなり、最短で即日のIT重説も可能になります。
ここで、現場でよく揉めることが多いのが「書類の確認漏れ」です。紙で郵送された場合は「届きましたか?」「はい、手元にあります」で話が早いのですが、電子データで送付された場合、お客様が「メールは届いているけれど、ファイルの開き方が分からない」「スマホの画面が小さくて文字が読めない」というトラブルが頻発します。
私が担当する際は、電子データで送付したとしても、お客様には「可能であれば、事前にご自宅やコンビニのプリンターで印刷しておいていただけると、当日メモを書き込みやすくて便利ですよ」とアドバイスするようにしています。特に、特約事項や退去時の原状回復費用など、トラブルになりやすいお金の項目については、手元に紙の書類があってペンで線を引ける状態にしておくのが、お客様自身の身を守るためにも一番安心かなと思います。
書類の送付方法(郵送か電子か)は不動産会社によって対応が異なりますので、事前の打ち合わせの段階で「書類はどのように届きますか?」と確認しておくことを強くおすすめします。
スマホやパソコンの端末準備

IT重説を受けるためには、当然ながらインターネットに接続された情報端末が必要です。デスクトップパソコン、ノートパソコン、タブレット、そしてスマートフォンのいずれでも法的には問題なく実施できます。実際に現場の感覚でお話しすると、全体の7割以上のお客様がスマートフォンで参加されていますね。やはり手軽さが最大の魅力です。
ただし、どの端末を使うにしても、必ず備わっていなければならない3つの機能があります。それは「カメラ」「マイク」「スピーカー」です。特にパソコンを利用される方でよくある落とし穴が、モニターにカメラが内蔵されていない、あるいはマイクが繋がっていないというケースです。IT重説ではお互いの顔を見ながら進める必要があるため、カメラが使えないとそもそも重説を開始することができません。
スマートフォンを利用する場合の注意点としては、「画面のサイズ」と「バッテリーの消費」です。スマートフォンの小さな画面に、不動産会社側から間取り図や細かい文字が書かれた契約書を画面共有で映し出された場合、文字が潰れてしまって非常に読みにくいことがあります。また、ビデオ通話は思いのほかバッテリーを激しく消費します。「途中で充電が切れてしまい、説明が強制終了になってしまった」というのは、現場で本当によくある失敗談です。
スマートフォンで参加される場合は、必ず充電器に接続した状態で行うか、事前にバッテリーを100%まで充電しておくことを強く推奨します。また、スマホを手に持ったまま1時間近く説明を聞くのは腕が疲れてしまいますし、画面が揺れて宅建士側も本人確認がしづらくなります。スマホスタンドを利用するか、壁や本に立てかけて、画面を固定した状態を作るのがベストなやり方です。
一方、パソコンやタブレットをお持ちであれば、個人的にはそちらでの参加をおすすめしています。画面が大きいので資料が見やすく、お客様自身の疲労度も全く違います。私自身の経験から言っても、パソコンで参加されているお客様のほうが、書類の該当箇所をすぐに見つけてスムーズに質疑応答ができる傾向にありますね。
また、使用するWeb会議ツール(アプリ)についても事前の確認が必要です。不動産業界で圧倒的に多いのは「Zoom」ですが、「Google Meet」などを利用する会社もあります。Zoomの場合は、お客様側でアカウントを作成する必要はなく、送られてきたURLをクリックするだけで参加できるため、IT機器に不慣れな方でも比較的簡単に接続できます。事前にアプリのダウンロードだけは済ませておくようにしましょう。
重説はいつ実施?最適な日程
「IT重説は、いつ受けるのがベストなんでしょうか?」というご相談もよくいただきます。基本的な流れとしては、物件の内見(オンライン内見含む)をして入居申し込みを行い、入居審査が無事に通過した直後のタイミングで実施されるのが一般的です。契約開始日(家賃が発生する日)や鍵の引き渡し日の前には、すべて完了させておかなければなりません。
日程調整の自由度が高いのは、IT重説の最大のメリットと言えます。店舗に出向く必要がないため、例えば「平日の仕事終わり、夜20時から自宅で」といったリクエストにも柔軟に対応してくれる不動産会社が増えています。私自身も、お昼休みの1時間を利用して会社の会議室からスマホで繋いでいただいたお客様を何人も担当しました。
しかし、ここで宅建士のリアルな本音を少しだけお話しさせてください。法律上、重要事項説明は契約を締結する「前」に行わなければならないとされています。これはつまり、重説を聞いてみて「やっぱり条件が合わないから契約をやめる」という選択肢をお客様が持っているということです。ですが、引っ越しの期限がギリギリで、鍵の引き渡し前日や当日に慌ててIT重説を詰め込むスケジュールにしてしまうと、どうなるでしょうか。
もし説明の中で「聞いていなかった高額なクリーニング費用」や「ペット不可の特約」などが発覚しても、もう後戻りできず、泣く泣く契約にサインせざるを得ない心理状態に追い込まれてしまいます。これはお客様にとって非常に危険な状態です。
最適な日程の目安は、鍵の引き渡し(契約開始日)の遅くとも1週間〜10日前です。
余裕を持った日程でIT重説を受けることで、疑問点があればしっかりと確認し、納得できない条件があれば不動産会社や管理会社と交渉する時間を確保することができます。
また、ご家族で入居される場合は、できればご夫婦やパートナーの方と同席で説明を受ける日程を調整されることをおすすめします。オンラインであれば、ご主人は会社から、奥様はご自宅からといったように、別々の場所から同じWeb会議にアクセスして同時に説明を聞くことも可能です(複数拠点接続)。言った・言わないのトラブルを防ぐためにも、関係者が全員揃った状態で説明を受けるのが一番安全ですね。
アプリ等での事前の接続テスト
IT重説を成功させるための最大の鍵とも言えるのが、この「事前の接続テスト」です。国土交通省のガイドラインでも事前テストの実施が推奨されており、きちんとしたコンプライアンス意識を持つ不動産会社であれば、本番の数日前、あるいは本番の直前(30分前など)に、必ず短い接続テストの時間を設けます。
「たかがビデオ通話でしょ?いきなり本番でも大丈夫」と思われるかもしれませんが、現場のリアルをお伝えすると、ぶっつけ本番で挑んだ場合のトラブル発生率は体感で3割を超えます。「マイクの許可設定がオフになっていて声が届かない」「背景ぼかし機能が強すぎて顔が判別できない」「Wi-Fiの電波が弱くて映像がフリーズする」など、技術的なトラブルは本当に多岐にわたります。
接続テストでは、主に以下の点を双方で確認します。
- 映像の遅延やカクつきはないか
- 音声にエコーがかかったり、途切れたりしていないか
- 宅建士が画面越しに見せる「宅地建物取引士証」の文字が読める画質か
特に重要なのが「宅建士証の確認」です。スマホのインカメラを使っていたり、回線速度が遅くて画質が荒くなっていたりすると、名前や登録番号が文字潰れを起こして読めません。これが読めない状態のまま重説を開始することは法律違反となってしまうため、画質の調整や光の当たり具合(逆光になっていないかなど)をこのテスト段階でしっかりと調整します。
私が担当した事例でよくあったのが、ご自宅のWi-Fiルーターから離れた部屋(例えば寝室など)で繋ごうとして、電波が微弱になってしまうケースです。テストの段階で映像が乱れた場合は、「ルーターのあるリビングに移動していただけますか?」とお願いして、安定して通信できる場所を探していただきます。
お客様ご自身でも、事前にご家族や友人とLINEのビデオ通話などで接続テストをしてみることをおすすめします。また、当日は思わぬアップデートが始まってしまってパソコンが重くなることもあるため、時間の余裕を持ってシステムを立ち上げておくことが大切ですね。
宅建士証の確認と本番の実施
事前のテストが無事に終わり、約束の時間になれば、いよいよIT重説の本番スタートです。手元に送られてきた重要事項説明書などの書類一式と、メモを取るためのペンを用意して画面の前に座りましょう。
本番の冒頭で、絶対に外せない儀式のような手続きがあります。それが宅地建物取引士証の提示と確認です。私のような宅建士が、画面のカメラに自分の顔写真付きの取引士証を近づけて、「宅地建物取引士の熊坂です。登録番号は〇〇〇〇です。画面で確認できますでしょうか?」と問いかけます。お客様はご自身の画面を見て、間違いなくその人物であり、文字が読み取れることを声に出して確認してください。これが適法な重説のスタートの合図になります。
説明の本編に入ると、宅建士が書類に沿って、物件の所在地、家賃の金額、設備の内容、契約期間、そして特約事項などを順番に読み上げて解説していきます。この時、良心的な不動産会社であれば、手元の書類をただ読み上げるだけでなく、Web会議システムの「画面共有機能」を使って、現在説明している箇所を画面上に映し出し、マーカーで色を引きながら説明してくれます。これがあると、今どこを話しているのか迷子にならずに済みます。
現場の実務経験から、お客様にぜひ意識していただきたいポイントがあります。それは「対面以上に、大きめのリアクションを取る」ということです。画面越しだと、お客様が本当に理解しているのか、それとも疑問に思って首を傾げているのか、宅建士側からは非常に読み取りにくいんですね。「はい」「分かりました」と声に出して相槌を打っていただいたり、少しでも「ん?」と思ったら、遠慮なく「すみません、今の一文の意味をもう一度教えてください」と遮って質問してください。
特に注意して聞いていただきたいのは「退去時の原状回復(ハウスクリーニング代など)」と「短期解約違約金」の項目です。賃貸トラブルのほとんどは、退去時の金銭負担をめぐるものです。「法律では借主負担ではないはずのものが、特約として借主負担にされている」というケースは現場で非常に多く見受けられます。もし納得できない記載があれば、その場で必ず説明を求めましょう。
重説はあくまで「説明」の場であり、その場ですぐに契約書にサインしなければならないわけではありません。しっかり理解して納得できた場合のみ、次の契約手続きへ進むというスタンスを忘れないでくださいね。
目安の所要時間と質疑応答
IT重説を受けるにあたって、「どれくらいの時間がかかるのか?」とスケジュールを気にされる方は多いですね。結論から言うと、一般的な居住用の賃貸マンション・アパートであれば、おおよそ40分〜1時間程度が目安になります。店舗での対面重説と所要時間自体はほとんど変わりません。
ただし、物件の性質や契約の複雑さによって時間は大きく変動します。例えば、新築のタワーマンションや、設備が特殊なデザイナーズ物件、あるいはペット飼育や楽器演奏に関する細かな特約がたくさん付いている物件の場合は、説明すべき事項が増えるため1時間半近くかかることも珍しくありません。逆に、駐車場だけの契約などであれば、15分程度で終わることもあります。
私が現場で気をつけているのは、「いかに質疑応答の時間を確保するか」ということです。40分の重説だとしたら、宅建士が一方的に話すのは30分程度に留め、残りの10分間は事前にお客様からいただいていた質問にお答えしたり、説明の中で引っかかった点を深掘りする時間にあてています。
お客様側も、ただ受け身で説明を聞き流すのではなく、事前に「これだけは確認しておきたい」という質問リストを作っておくことをおすすめします。例えば、以下のような質問は現場でもよく出ますし、確認しておいて損はありません。
- 「ゴミ出しのルール(曜日や指定ゴミ袋の有無)はどうなっていますか?」
- 「エアコンなどの設備が故障した場合、修理費用の負担と連絡先はどこですか?」
- 「自転車やバイクを駐輪する場合、別途シール代や月額料金はかかりますか?」
オンラインの強みを活かして、Googleマップやストリートビューを画面共有で一緒に見ながら、「この道は夜暗そうですが、街灯はありますか?」といった周辺環境に関する質問をされるお客様もいらっしゃいます。これは対面ではなかなか難しい、IT重説ならではの賢い活用方法だなと感心させられます。
質疑応答の時間が終わる頃には、担当者から「ここまででご不明な点はございませんか?」と最終確認があります。ここで少しでもモヤモヤが残っている場合は、絶対に妥協してはいけません。契約してしまってからでは遅いので、完全に納得できるまで質問をぶつけてください。誠実な不動産会社であれば、どんなに時間がかかっても丁寧に対応してくれるはずです。
IT重説の賃貸の流れにおける注意点
ここまで、IT重説の基本的な流れや手順について解説してきましたが、オンラインという非対面の環境だからこそ潜む落とし穴や、特有のトラブルも存在します。ここからは、実務の最前線で私が何度も直面してきたトラブル事例をもとに、IT重説を受ける際の具体的な注意点と、その対策について深掘りしていきましょう。
通信トラブル時の対応とルール

IT重説における最大の敵は、なんといっても「通信トラブル」です。どれだけ念入りに事前テストを行っていても、本番中に突然Wi-Fiルーターの調子が悪くなったり、マンションの回線が混み合って速度が極端に低下したりすることは、どうしても避けられません。
ここで皆さんに絶対に知っておいていただきたい、法律上の非常に重要なルールがあります。それは、「通信障害によって映像や音声が不鮮明になった場合、宅建士は直ちに説明を中断しなければならない」という国土交通省の厳格な規定です。
実際の現場では、お客様の画面がフリーズしてしまったり、音声がロボットのように途切れて何を言っているか分からなくなったりすることがあります。この時、「まあ、大体の雰囲気は伝わっているから、このまま進めちゃおう」というのは絶対にNGなのです。不動産会社側は、録画記録を残していることもあり、後から「あの時、通信が切れていて重要な特約を聞いていなかった」と言われるリスクを極端に恐れます。
もし通信トラブルが発生した場合は、焦らずに以下の対応を取ってください。 すぐにチャット機能や電話などで「映像が固まりました」「声が聞こえません」と担当者に伝える。 Wi-Fiを一度切って再接続する、あるいはスマートフォンのモバイル回線(4G/5G)に切り替える。 どうしても復旧しない場合は、無理に続けず、勇気を持って別の日程に再設定(リスケジュール)を申し出る。
私が担当したケースでも、台風の影響で通信インフラが不安定になり、何度繋ぎ直してもブツブツ切れてしまうお客様がいらっしゃいました。その際はお客様に状況を説明し、「このまま進めるのは重要事項の理解において危険ですので、大変申し訳ありませんが明日の夜に改めてお時間をいただけますでしょうか」とご提案し、仕切り直したことがあります。中断すること自体は法的な正しい手順ですので、引け目を感じる必要は全くありません。
通信トラブルは誰にでも起こり得るものとして、あらかじめ「もし回線が切れたら、担当者の携帯電話に連絡する」といった緊急連絡先を共有しておくのが、現場のプロが実践しているリスクヘッジの方法ですね。
スマホ通信の注意点とデータ量
前述の通り、スマートフォンの手軽さから多くの方がスマホでIT重説を受けられます。しかし、ここには「通信データ量(いわゆるギガ数)」という大きな罠が潜んでいます。この問題を甘く見ていると、重説の途中で悲惨な事態に陥ることになります。
ビデオ通話を利用したオンライン会議は、皆さんが想像している以上に膨大なデータ通信量を消費します。例えば、一般的な画質でZoomを1時間利用した場合、およそ600MB〜1GB程度のデータを消費すると言われています。もし高画質設定になっていれば、その倍近くを消費することもあります。
ここで現場のリアルな失敗例をお話ししましょう。あるお客様が、月末のタイミングでご自身のスマートフォンのモバイル回線(4G)を使ってIT重説に参加されました。説明が始まって30分ほど経った頃、突然お客様の映像が紙芝居のようにカクカクになり、音声も完全に途絶えてしまいました。電話で状況を確認したところ、「今月分のデータ通信量の上限に達してしまい、通信速度制限(ギガ不足)にかかってしまった」とのことでした。
通信速度制限がかかった状態の低速回線では、ビデオ通話を維持することは物理的に不可能です。結果としてその日の重説は強制終了となり、後日Wi-Fiのある環境から再度やり直すことになりました。お互いにとって非常に大きなタイムロスになってしまったわけです。
スマートフォンでIT重説を受ける場合は、必ずご自宅の光回線などに繋がった安定したWi-Fi環境下で実施してください。
もしご自宅にWi-Fi環境がなく、ご自身のモバイル回線を使用せざるを得ない場合は、契約している携帯キャリアのプランが「データ使い放題プラン」であるか、あるいは「残りギガ数に十分な余裕(最低でも2GB以上)があるか」を事前にしっかりと確認しておく必要があります。
また、カフェなどの無料の公衆Wi-Fi(フリーWi-Fi)を利用しようと考える方もいらっしゃいますが、セキュリティの観点からも、通信の安定性の観点からも、絶対に避けてください。不特定多数が接続するフリーWi-Fiは通信速度が急激に落ちることが多く、IT重説のような重要な手続きには全く適していません。静かで安定した環境を用意することが、ご自身の大切な契約を守るための第一歩かなと思います。
デメリットや録画時の同意事項
IT重説はメリットばかりが強調されがちですが、冷静にデメリットやリスクも把握しておく必要があります。特に現場で気を遣うのが、オンライン特有の「非言語コミュニケーションの欠如」と「録画によるプライバシー問題」です。
対面で重説を行っている時、私たち宅建士は、お客様の微妙な表情の変化や、頷きのタイミング、視線の動きなどから「あ、今の専門用語、少し難しくて理解が追いついていないな」と直感的に察知し、説明のペースを落としたり、別の言葉で言い換えたりしています。しかし、画面越しでは画質の限界やわずかなタイムラグがあり、こうした細かなサインを読み取ることが非常に困難になります。お客様側も、雰囲気に飲まれて「よく分からないけれど、とりあえずハイと言っておこう」と流されてしまう危険性があるんですね。これを防ぐためには、先ほどもお伝えした通り、お客様ご自身が意識して疑問を口に出す自己防衛が求められます。
そして、もう一つ非常にデリケートな問題が「録画」に関する扱いです。 IT重説では、「言った・言わない」のトラブルを後日防ぐための証拠保全として、不動産会社側がWeb会議システムの機能を使って説明の様子を録画・録音することが一般的になっています。国土交通省のガイドラインでも証拠保全は推奨されています。
しかし、重説の内容には、お客様の年収、勤務先、連帯保証人の個人情報、ご家族の状況など、極めてプライベートな個人情報が多量に含まれます。自分の顔と声、そしてプライバシー情報がデータとして残ることに抵抗を感じる方は少なくありません。
ここで重要なルールがあります。不動産会社が録画を行う場合、必ず事前にお客様の明確な「同意」を得なければなりません。勝手にこっそり録画することは許されていないのです。
実務においては、事前の同意書の段階で「記録保持のために録画をさせていただきます」というチェック項目があったり、重説の冒頭で「本日はトラブル防止のため、録画を開始させていただきますがよろしいでしょうか?」と口頭で確認が行われます。
もし、どうしても録画されることに強い抵抗がある場合は、「録画はしないでほしい」と明確に拒否する権利がお客様にはあります。録画を拒否したからといって契約できないわけではありません。その場合、不動産会社側は「何時何分に、どの項目を説明したか」という詳細な書面(ログ)を残すなどの代替措置を取って対応することになります。
ただし、録画はお客様自身を守る強力な証拠にもなり得ます。入居後に「聞いていた話と違う!」となった時、録画データがあれば事実関係がすぐに明白になります。録画データの保管期間や、誰がアクセスできるのかといったセキュリティポリシーを事前に確認し、納得した上で同意するのが、最も賢明な対応だと言えるでしょう。
電子契約を用いた署名と返送
無事にIT重説が終了し、すべての条件に納得できたら、最後は「契約書の締結」というフェーズに移行します。ここでの手続きの流れが、最近の法改正によって劇的に変わりつつあり、現場でも大きな過渡期を迎えています。
従来のやり方では、事前に郵送されていた紙の「重要事項説明書」と「賃貸借契約書」に、お客様自身で署名と実印(または認印)での押印をしていただき、同封されている返信用封筒に入れてポストへ投函し、不動産会社に返送するという流れでした。このアナログなやり方だと、返送されるまでに数日かかり、もし押印漏れや記入ミスがあれば再度郵送でやり直しになるなど、非常に手間と時間がかかっていたんですね。
しかし、2022年5月の宅建業法改正により、不動産契約の「完全電子化(電子契約)」が解禁されました。これにより、「IT重説 賃貸 流れ」における最後のピースが埋まり、来店不要・ペーパーレスでの取引が完成したのです。
電子契約システム(クラウドサインやGMOサインなどが有名です)を導入している不動産会社であれば、IT重説が終わった直後、あるいは翌日などに、お客様のメールアドレスやスマートフォン宛てに「署名依頼」のURLが送られてきます。
お客様は、届いたURLにアクセスし、画面上に表示された契約書の内容を最終確認します。問題がなければ、画面の指示に従って「同意して署名する」といったボタンをタップするだけです。これで電子署名が完了し、法的に有効な契約が成立します。
印鑑を用意する必要も、朱肉で手が汚れることも、ポストへ投函しに行く手間も一切ありません。私が現場で対応していても、この電子契約のスピーディーさにはお客様から「えっ、これで終わりですか?すごく簡単で助かります!」と驚きと感謝の声をいただくことが本当に多いです。
ただし、すべての不動産会社が電子契約に対応しているわけではありません。業界全体で見ると、大手を中心に導入が進んでいますが、地場の小さな不動産屋や、昔ながらの大家さん(貸主)が電子契約に難色を示し、やむを得ず紙の契約書を使っているケースもまだまだ多く存在します。 IT重説はできても、署名は紙とハンコで郵送、というパターンの会社もたくさんあるのが現実です。完全オンラインで引っ越しを終わらせたい方は、お部屋探しの初期段階で「御社はIT重説だけでなく、電子契約にも対応していますか?」と確認しておくことが、無駄なストレスを抱えないための重要なポイントですね。
IT重説の賃貸の流れのまとめ
ここまで、宅建士の視点からIT重説に関するさまざまな手続きや注意点をお伝えしてきました。非常に長い解説になりましたが、最後までお読みいただき本当にありがとうございます。
改めて振り返りますと、オンラインで完結するお部屋探しは、時間や移動のコストを大幅に削減できる素晴らしい仕組みです。IT重説の賃貸の流れをまとめると、以下のようになります。
- 事前の環境確認とIT重説実施への同意を行う
- 必要書類(紙または電子データ)を事前に受け取る
- スマホやパソコンの準備をし、事前の接続テストで画質や音声を確認する
- 本番当日は、通信環境の良い場所で宅建士証を視認し、説明を受ける
- 疑問点は遠慮なく質問し、納得した上で電子契約(または書面返送)で署名する
便利なツールである反面、対面ほどの緊迫感がないため、ついつい説明を聞き流してしまったり、通信トラブルに巻き込まれたりするリスクがあることもお分かりいただけたかと思います。不動産契約は、皆様の大切な生活の基盤となる高額な取引です。「オンラインだから適当でいいや」ではなく、「オンラインだからこそ、自分でしっかり確認して身を守る」という意識を持つことが、入居後のトラブルを回避する最大の防御策となります。
この記事で解説した費用の負担割合や法律上のルールなどは、あくまで一般的な目安であり、実際の契約内容や特約事項は物件ごとに全く異なります。少しでも不安に感じることや、納得のいかない条件が提示された場合は、その場ですぐに同意せず、必ず専門家や担当の不動産会社にしっかりと確認を行ってください。最終的なご判断は自己責任となりますが、私たち宅建士は、お客様が安心してお部屋を借りられるよう、全力でサポートする義務があります。
オンラインの利便性を最大限に活用して、皆様が理想のお部屋と出会い、気持ちよく新生活をスタートできることを心から願っております。賃貸トラブル解決ナビの熊坂でした。またお会いしましょう!