借主と貸主はどっち?契約書の署名や修繕費の負担を宅建士が解説

借主と貸主はどっち?契約書の署名や修繕費の負担を宅建士が解説

こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、運営者の熊坂です。

これから一人暮らしを始める方や、契約更新の書類を前にして手が止まってしまった方からよくご相談をいただきます。契約書には難しい漢字が並んでいて、自分が「甲」なのか「乙」なのか、署名欄はどっちに書けばいいのか、迷ってしまうことはありませんか。また、入居中のエアコン故障や退去時の壁紙の張替え費用など、お金に関わる問題について、借主と貸主のどっちが負担するのか不安に感じることも多いのではないでしょうか。この記事では、不動産用語の基礎から、知っておくと損をしない費用のルールまで、宅建士の視点でわかりやすくお話しします。

  • 契約書における賃借人と賃貸人の正しい読み方と役割の違い
  • 甲と乙の表記ルールと自分の立場を間違えない確認方法
  • 仲介手数料や更新料に関する法的ルールと費用の負担区分
  • 入居中の設備故障や退去時の原状回復における費用の境界線
目次

契約書の借主と貸主はどっちに署名すべきか

賃貸借契約書を目の前にすると、「賃貸人」「賃借人」といった普段使い慣れない言葉や、「甲」「乙」といった記号のような呼び名が出てきて混乱してしまいますよね。ここでは、まず言葉の定義をしっかりと整理し、契約書作成の実務的なルールについて解説します。ここを理解しておけば、契約手続きで慌てることはなくなりますよ。

賃借人と賃貸人の読み方と意味の違い

賃借人と賃貸人の読み方と意味の違い

まずはじめに、契約書の基本となる用語、「賃借人」と「賃貸人」について解説します。似たような漢字が並んでいて、どっちがどっちだっけ?となりやすい部分ですが、ここを間違えると契約の意味が全く逆になってしまうので注意が必要です。

「賃借人」は「ちんしゃくにん」と読みます。これは、お金(家賃)を払って物件を借りる人、つまり「入居者であるあなた」のことです。法律用語では「借主(かりぬし)」とも呼ばれますが、契約書ではより厳格な表現として賃借人が使われます。物件を使用し収益を得る権利(賃借権)を持つ代わりに、家賃支払い義務や、部屋をきれいに使う善管注意義務を負います。

一方、「賃貸人」は「ちんたいにん」と読みます。こちらは物件を貸す人、つまり「大家さん」や「オーナー」のことを指します。一般的には「貸主(かしぬし)」と呼ばれますね。賃貸人は、入居者に部屋を使用させる義務を負い、その対価として家賃を受け取る権利を持っています。

【豆知識】大家さん=所有者とは限らない? 実は、賃貸人が必ずしも建物の所有者(オーナー)であるとは限りません。「サブリース契約(転貸借)」の物件では、不動産管理会社がオーナーから建物を一括で借り上げ、それを入居者に貸し出しています。この場合、契約書上の「賃貸人」は管理会社(サブリース業者)となります。トラブル時の連絡先が変わってくるので、誰が賃貸人なのかは必ず確認しておきましょう。

普段の会話では「借主」「貸主」で十分通じますが、契約書や重要事項説明書では必ずこの法律用語が出てきます。「借=かりる」「貸=かす」という漢字の意味そのままでイメージしておけば、迷うことは少なくなりますよ。

甲と乙はどちらが自分か確認する方法

日本の契約書では、当事者の名前を何度も書く手間を省くために、「甲(こう)」「乙(おつ)」という代名詞に置き換える慣習があります。これを見て「自分は甲なのかな?乙なのかな?」と不安になる方も多いですよね。

一般的に、不動産業界の慣習では以下のようになっているケースが圧倒的多数です。

表記一般的な割り当て役割
甲(こう)貸主(賃貸人)物件を提供する側(大家さん・管理会社)
乙(おつ)借主(賃借人)家賃を払って住む側(あなた)
丙(へい)連帯保証人など契約を保証する第三者

このように、「資産を持っている強い立場=甲」「借りる側=乙」とされることが多いため、基本的には「借主であるあなたは乙」である可能性が高いです。しかし、これはあくまで慣習であり、法律で決まっているわけではありません。社宅代行会社が入る法人契約や、特定のオリジナルの契約書ひな形を使っている場合などでは、稀に立場が逆転している(借主が甲になっている)ケースも存在します。

ですので、「借主=乙」と決めつけて読み進めるのは危険です。必ず契約書の冒頭(前文)にある「定義条項」を確認してください。そこには必ず、「賃貸人〇〇(以下「甲」という)と賃借人〇〇(以下「乙」という)は、以下の通り契約を締結する」といった記述があります。ここを確認するのが、間違いを防ぐ唯一かつ確実な方法です。

署名捺印は上と下のどちらにするか

署名捺印は上と下のどちらにするか

契約書の最後にある署名捺印欄で、「どっちに書けばいいですか?」と質問されることがよくあります。上段と下段、あるいは右側と左側に分かれていることが多いですが、ここにも暗黙のルールのようなものが存在します。

ビジネスマナーや一般的な慣習としては、「甲(貸主)が上、乙(借主)が下」もしくは「右が甲、左が乙」という配置になっていることがほとんどです。目上の方や資産を提供する側を上座(上や右)にするという日本の伝統的な考え方が反映されているんですね。

ただ、最近の契約書では、あらかじめ「賃貸人(住所・氏名)」「賃借人(住所・氏名)」と印字されていることが大半ですので、指定された欄に記入すれば問題ありません。もし白紙の欄が上下にあって迷った場合は、仲介担当者に「どちらに記入すればよいですか?」と聞くのが一番ですが、基本的には下段等の「乙」の欄になることが多いと覚えておくとスムーズです。

【重要】ハンコを押す順番について トラブル防止の観点からは、「貸主側が先に押印し、借主が内容を確認して最後に押印する」のが理想的です。借主がハンコを押した後に、勝手に条件を書き換えられるリスクを防ぐためです。しかし実務上は、入居審査や鍵渡しのスケジュールの関係で、借主が先に署名捺印して提出し、後から大家さんが押印した完全な契約書が返送されてくる(または鍵渡しの時に渡される)ケースも多々あります。この場合は、自分が書いた内容のコピーを必ず手元に残しておくようにしましょう。

仲介手数料の負担割合と承諾のルール

契約時の初期費用で大きなウェイトを占めるのが「仲介手数料」です。不動産会社から提示された見積書を見て、「家賃の1ヶ月分+消費税」が当たり前だと思っていませんか?実は法律(宅地建物取引業法)の原則を知っていると、見え方が少し変わってきます。

法律上の原則では、仲介会社が受け取れる報酬の上限は、貸主と借主の合計で「家賃の1ヶ月分」までと決まっています。そして重要なのが、「依頼者の一方から受け取れる報酬は、原則として家賃の0.5ヶ月分(+税)まで」と定められている点です。

「えっ、でも私は1ヶ月分払いましたよ?」という方がほとんどだと思います。なぜ1ヶ月分がまかり通っているかというと、法律には例外規定として「依頼者の承諾を得ている場合は、一方から1ヶ月分を受け取ってもよい」とあるからです。つまり、不動産会社は「借主であるあなたが1ヶ月分払うことに承諾してくれた」という前提で請求しているのです。

承諾のタイミングが重要です 最近の裁判例(東急リバブル事件など)では、契約直前になって初めて手数料額を提示し、なし崩し的に承諾させた場合は「無効」となる判断も出ています。本来は、物件探しを依頼する段階で説明と合意が必要です。もし、説明もなく当然のように1.1ヶ月分を請求された場合は、「原則は0.5ヶ月分ですよね?」と交渉の余地があるかもしれません。ただし、人気物件の場合は交渉すると入居を断られるリスクもあるため、物件の人気度合いを見極めながら慎重に判断する必要があります。

火災保険の加入義務と選び方の自由

火災保険の加入義務と選び方の自由

賃貸契約の見積書に必ず入っている「火災保険(家財保険)」。「加入必須」と言われることが多いですが、法律で加入が義務付けられているわけではありません。しかし、実質的には加入しないと契約できないケースがほとんどです。

なぜなら、借主には退去時に部屋を元通りにして返す「原状回復義務」があるからです。もしあなたの不注意で火事を起こして部屋を燃やしてしまった場合、大家さんに対して莫大な損害賠償責任を負うことになります(借家人賠償責任)。個人の貯金で数千万円を支払うのは現実的に不可能ですよね。だからこそ、大家さんは自分の資産を守るために、保険加入を契約の条件(義務)にしているのです。

ただし、「どの保険会社に入るか」は借主の自由です。不動産会社や管理会社が「当社の指定するプラン(2年間で2万円など)」を勧めてくることが一般的ですが、これはあくまで推奨です。独占禁止法の観点からも、強制することはできません。

自分でネット保険や共済などを探せば、年間4,000円〜5,000円程度で十分な補償内容(借家人賠償責任2,000万円以上など)のものが見つかることもあります。「自分で選んだ保険に入りたいのですが、必要な補償額を教えていただけますか?」と聞いてみるのも、初期費用を抑える一つのテクニックです。ただし、契約手続きの手間や、更新時の加入漏れを防ぐ安心感を優先して、管理会社指定の保険に入るのも間違いではありません。

更新料の支払い義務と有効性の要件

更新料の支払い義務と有効性の要件

関東(特に首都圏)や京都などで一般的な「更新料」。2年に1度、家賃の1ヶ月分程度を支払うのが慣習となっていますが、「これって法律で決まっているの?」と疑問に思う方も多いでしょう。

結論から言うと、民法や借地借家法には更新料に関する規定はありません。つまり、法律上の義務ではないのです。しかし、だからといって「払わなくていい」とはなりません。過去の最高裁判決では、以下の要件を満たす場合、更新料の特約は「有効」であると判断されています。

  • 契約書に更新料の額が明確に記載されていること
  • 金額が不当に高すぎないこと(家賃の1〜2ヶ月分程度なら合理的とされる)
  • 消費者契約法に反しないこと

つまり、契約書に「更新時に新賃料の1ヶ月分を支払う」とハンコを押してあれば、それは私的な契約として有効になり、支払い義務が生じます。逆に言えば、契約書に更新料の記載が一切ない場合や、法定更新(合意せずに自動更新された場合)の取り扱いについては争う余地がありますが、基本的には「契約書に書いてあるなら払う必要がある」と考えておくのが無難です。契約前に「更新料はあるのか?いくらなのか?」をしっかりチェックすることが大切です。

修繕費や退去費用は借主と貸主どっちの負担

入居してから退去するまで、一番トラブルになりやすいのが「お金」の問題です。「エアコンが壊れたけど修理代は誰が出すの?」「退去時のクロス張り替え代、高すぎない?」といった疑問は尽きません。ここでは、2020年の民法改正や国土交通省のガイドラインに基づき、費用負担の境界線を明確にしていきます。

エアコンなど設備の修繕義務の範囲

エアコンなど設備の修繕義務の範囲

入居中、最初から付いていたエアコンやお風呂の給湯器が壊れた場合、その修理費用は誰が負担するのでしょうか。答えは、原則として「貸主(大家さん)」の負担となります。

民法第606条には、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と明記されています。あなたは家賃を払っているわけですから、大家さんには「普通に住める状態を提供する義務」があるのです。したがって、経年劣化や自然故障であれば、借主が費用を出す必要はありません。

【重要】勝手に修理するのはNG?

2020年の民法改正により、以下の条件を満たす場合は、借主が自分で修理を手配し、その費用を大家さんに請求できる(または家賃から差し引く)ことが明確化されました。

急迫の事情があるとき(例:台風で窓が割れた、トイレが溢れたなど)

大家さんに修繕が必要だと伝えたのに、相当の期間直してくれないとき

電球交換など小修繕の費用負担

電球交換など小修繕の費用負担

「じゃあ、電球が切れたり、蛇口のパッキンが古くなって水漏れした場合も大家さんが直してくれるの?」と思いますよね。実は、こういった軽微な修繕(小修繕)については、多くの契約で「借主(あなた)の負担」とする特約が結ばれています。

電球1個を交換するために、わざわざ管理会社や業者が動いていては非効率ですし、コストもかかります。そのため、以下のような消耗品の交換や小さな修理は、入居者が自分で行うのが一般的です。

  • 電球、蛍光灯の交換
  • 水道蛇口のパッキン交換
  • 網戸の張り替え(経年劣化以外)
  • エアコンフィルターの清掃
  • リモコンの電池交換

契約書の「特約事項」や「別表」に、負担区分が細かく書かれていることが多いので、一度目を通してみてください。「設備=大家さん負担」と思い込んでいると、電球交換を頼んだ際に出張費を請求されて驚く…なんてことにもなりかねませんので注意が必要です。

原状回復ガイドラインと壁紙の張替え

退去時に最も揉めるのが、敷金返還と原状回復費用です。「借主 貸主 どっち」と検索する方の多くが、この問題に直面しているのではないでしょうか。ここでの判断基準となるのが、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。

ガイドラインの大原則は、「普通に生活していて汚れたり古くなったりした分(通常損耗・経年変化)は、すでに家賃に含まれているので、貸主が負担する」というものです。一方で、借主の不注意や故意でつけた傷(特別損耗)は、借主が負担します。

項目貸主(大家)負担となる例借主(あなた)負担となる例
壁紙(クロス)日焼けによる変色 冷蔵庫裏の電気焼け(黒ずみ) 画鋲の穴(下地が無事な程度)タバコのヤニ・臭い 子供の落書き 釘やネジの深い穴 結露放置によるカビ
床(フローリング)家具を置いたことによる凹み 日焼けによる色あせ引越し時のひっかき傷 キャスターによる深い傷 雨の吹き込みによる腐食

また、重要なのが「減価償却」の考え方です。例えば壁紙(クロス)の耐用年数は6年とされています。もしあなたが新築から6年以上住んで退去する場合、壁紙の価値はほぼ1円(または10%)まで下がっています。たとえあなたの過失で壁紙を破ってしまったとしても、新品に張り替える費用の全額を負担する必要はなく、残存価値の分だけ負担すれば良いのです。これを知っているだけで、不当な高額請求から身を守ることができます。

退去時のクリーニング特約の注意点

退去時のクリーニング特約の注意点

ガイドラインでは、「借主が通常の清掃を行っていれば、専門業者によるハウスクリーニング費用は貸主負担」というのが原則です。しかし、皆さんの契約書には「退去時、借主はハウスクリーニング費用を負担する」と書かれていませんか?

実は、このような「特約」は、一定の条件を満たせば有効とされています。判例では、以下の条件が必要とされています。

  • 特約の必要性があり、暴利的でないこと
  • 借主が特約の内容を理解し、合意していること
  • 契約書に具体的な金額(例:35,000円)が明記されていること

金額が明記されていて、それに納得して契約したなら、原則として支払う必要があります。しかし、「実費」としか書かれていない場合や、相場(1Kで3〜4万円程度)とかけ離れた高額な請求が来た場合は、消費者契約法に基づき無効を主張できる可能性があります。契約を結ぶ前に、クリーニング代がいくらなのか、定額なのか実費なのかを必ず確認しましょう。

トラブル時の連絡先は管理会社か大家か

騒音問題や水漏れなど、いざトラブルが起きたとき、「どっちに連絡すればいいの?」と迷うことがあります。これは、物件の管理形態によって異なります。

1. 管理会社が入っている場合(管理委託) エントランスや掲示板に「管理:〇〇不動産」と看板がある場合は、管理会社へ連絡します。大家さんは管理業務を委託しているので、直接大家さんに連絡しても「管理会社に言って」と言われるだけですし、契約関係を無視することになりかねません。

2. 大家さんが自主管理している場合 大家さんが同じ建物の最上階や隣に住んでいて、日常の掃除などもしている場合は、直接大家さん(貸主)へ連絡します。

【注意】騒音トラブルの直接訪問は厳禁! 上の階の足音がうるさい等の理由で、直接相手の部屋に苦情を言いに行くのは絶対にやめましょう。感情的になって口論になったり、さらに大きなトラブル(事件)に発展するリスクがあります。必ず管理会社や大家さんという「第三者」を通して注意してもらうのが鉄則です。

借主と貸主どっちか迷った時の対処法

ここまで、借主と貸主の役割や費用負担について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。最後に、迷ったときのポイントをまとめます。

困ったときのクイックチェック

用語で迷ったら:「賃借人」=あなた(借りる人)、「賃貸人」=大家さん(貸す人)。

署名位置で迷ったら:基本は「乙(下段・左側)」があなた。でも定義条項を必ず読む。

修繕で迷ったら:設備故障=大家さん、消耗品・不注意=あなた。

退去費用で迷ったら:経年劣化は考慮される。6年以上住めば負担は激減する。

不動産のルールは複雑に見えますが、「借りているものを大切に使う(善管注意義務)」と「住める環境を提供する(使用収益させる義務)」というお互いのバランスで成り立っています。もし、理不尽な請求を受けたり、判断に迷うことがあれば、一人で悩まずに消費生活センターや、各自治体の住宅相談窓口、あるいは私たちのような専門家に相談することをおすすめします。正しい知識を持つことが、あなたの大切な資産と快適な暮らしを守る一番の武器になりますよ。

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