
【結論】更新事務手数料の相場は、一般的に家賃の0.5ヶ月分または定額1〜3万円ですが、契約書に記載があれば支払いは原則必須です。しかし、ただ言いなりになる必要はありません。本記事では、相場の適正性や消費税の扱い、そして火災保険の自己加入による具体的なコスト削減術まで網羅しました。正しい知識で交渉し、無駄な出費を抑えながら納得できる契約更新を目指しましょう。
こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、運営者の熊坂です。
賃貸物件に住んでいて契約更新の時期が近づくと、ポストに届く更新通知書を見てドキッとした経験はありませんか。特に更新料とは別に請求される更新事務手数料については、相場がいくらなのか、そもそも払わないといけないのかといった疑問を持つ方が非常に多いです。ネットで検索すると違法ではないかという意見や、支払うタイミングについての情報が錯綜しており、不安になるのも無理はありません。また、この手数料に消費税がかかるのかどうかも、意外と知られていないポイントです。今回は、長年不動産業界に身を置く私の視点から、このモヤモヤする費用の実態について詳しくお話しします。
- 更新事務手数料の相場と計算方法の仕組み
- 大手管理会社ごとの具体的な手数料設定の違い
- 支払いを拒否できるケースと法的な判断基準
- 火災保険の見直しなど具体的なコスト削減方法
賃貸の更新事務手数料の相場と仕組み
更新事務手数料という言葉を聞いて、「えっ、更新料と何が違うの?」と思われる方も多いはずです。まずはこの費用の基本的な相場観と、どのようなロジックで金額が決まっているのかについて、業界の裏側も交えながら解説していきます。
家賃ごとの手数料目安

更新事務手数料の金額設定には、大きく分けて二つのパターンが存在します。一つは「家賃に比例して決まるパターン」、もう一つは「一律の金額で決まるパターン」です。
まず、昔ながらの不動産屋さんや地場の管理会社に多いのが、家賃の0.25ヶ月分から0.5ヶ月分という設定です。これは、新規で部屋を借りる時の仲介手数料が家賃の0.5ヶ月分から1ヶ月分であることを参考に、その半分程度を更新の手間賃として設定している慣習から来ています。
例えば、家賃が6万円の物件であれば、その0.5ヶ月分で3万円(税別)。家賃が10万円なら5万円(税別)となります。ここで注意したいのは、家賃が高くなればなるほど、手数料も高額になってしまうという点です。同じ契約書の作成作業であっても、家賃20万円の高級マンションなら手数料だけで10万円近くになることもあり、入居者からすると「書類一枚でこの金額?」と納得しづらい部分があるのが正直なところです。
一方、近年増えているのが「定額型」です。これは家賃の金額に関わらず、1万円から3万円程度を一律で請求するスタイルです。事務作業にかかる人件費や郵送費などの実費をベースに考えられているため、比較的透明性が高いと言えます。家賃が高い物件に住んでいる方にとっては定額型の方がお得感がありますが、家賃3万円のアパートに住んでいる方にとっては、たとえ1万円でも「家賃の3分の1も取られるのか」と重くのしかかることになります。
ポイント 自分の契約が「家賃比例型」なのか「定額型」なのかをまずは確認しましょう。家賃比例型で高額な場合は、交渉の余地があるかもしれません。
大手管理会社の事務手数料設定
全国展開しているような大手管理会社は、それぞれの会社ごとのポリシーで手数料を一律設定しているケースがほとんどです。ここでは、私が実務で見聞きする主要な会社の傾向をご紹介します。ただし、これらは契約時期や地域、プランによって異なる場合があるので、必ずご自身のお手元の契約書を確認してください。
まず、業界最大手クラスの大東建託パートナーズ(DK SELECT)ですが、以前は比較的安価な設定でしたが、近年改定が行われ、22,000円(税込)という設定が増えています。これは電子契約システムの導入や管理体制の強化に伴うものと考えられますが、短期間での値上げ傾向にあるため注意が必要です。
次に、積水ハウスの賃貸住宅シャーメゾンを管理する積水ハウス不動産です。こちらは物件のグレードが高いこともあり、事務手数料も33,000円(税込)といった強気の設定が見受けられます。場合によっては「更新契約事務手数料」だけでなく、「保証委託契約更新事務手数料」といった名目で別途費用がかかるケースもあるため、トータルコストで見る必要があります。
レオパレス21の場合は、更新手数料として16,500円(税込)が標準的です。ただし、レオパレスは家具家電付き物件が多いため、これとは別に「環境維持費」や会員費などがかかることがあります。
大和リビング(D-room)は、11,000円〜16,500円(税込)程度の設定が一般的です。「タダシプラン」のように、更新料自体を無料にする代わりに月々の家賃を少し高めに設定するプランも展開しており、更新時の手出しを抑えたいニーズに対応しています。
| 管理会社ブランド | 事務手数料目安(税込) | 特徴 |
|---|---|---|
| 大東建託(DK SELECT) | 22,000円 | 以前より値上げ傾向。定額制が主流。 |
| 積水ハウス(シャーメゾン) | 22,000円〜33,000円 | 比較的高めの設定。別途保証更新料も。 |
| レオパレス21 | 16,500円 | 環境維持費等が別途かかる場合あり。 |
| 大和リビング(D-room) | 11,000円〜16,500円 | プランにより更新料無料の選択肢も。 |
豆知識 これらの金額はあくまで「今の相場」であり、将来的に改定される可能性があります。契約更新の案内が届いたら、前回の更新時と金額が変わっていないかチェックすることをおすすめします。
地域による更新料の違い
更新にかかる費用は、実は地域によって全く異なる「ローカルルール」が存在します。関東で当たり前のことが関西では非常識、なんてことも珍しくありません。
まず関東圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)ですが、ここは更新料の徴収が最も一般的なエリアです。新賃料の1ヶ月分が更新料として設定され、それに加えて事務手数料として0.25ヶ月分〜0.5ヶ月分がかかるケースが多いです。つまり、更新のタイミングで家賃の1.5ヶ月分以上が飛んでいくのが「普通」とされています。特に神奈川県は更新料の徴収率が非常に高いのが特徴です。
対照的なのが大阪や兵庫を中心とした関西圏です。こちらでは伝統的に「更新料」という名目の費用を取る習慣がほとんどありませんでした。その代わり、事務手数料として定額の1万円〜2万円を支払うか、あるいは「自動更新」として一切費用がかからない物件も多く存在します。ただし最近は、東京資本の大手管理会社が進出してきた影響で、関西でも更新料を設定する物件が少しずつ増えてきています。
特殊なのが京都府です。京都は全国でも更新料の相場が高く、家賃の1ヶ月分どころか2ヶ月分近く請求されることもあります。「謝礼」の文化が色濃く残っている地域性と言えるでしょう。
その他、札幌や福岡といった地方都市では、更新料自体がない、あるいはあっても少額(事務手数料のみ数千円〜1万円程度)というケースが多く見られます。特に札幌は冬場の暖房費負担が重いため、更新コストは抑制される傾向にあります。
このように、ネット上の「相場」情報を鵜呑みにせず、自分が住んでいる地域の慣習と照らし合わせることが重要です。
事務手数料にかかる消費税

意外と見落としがちなのが「消費税」の扱いです。「家賃に消費税はかからないんだから、更新費用も非課税でしょ?」と思っていると、請求書を見て「あれ、消費税が入ってる?」と驚くことになります。
結論から言うと、更新事務手数料は消費税の課税対象です。
少し専門的な話になりますが、居住用の家賃や更新料(オーナーに支払う謝礼的なもの)は、政策的な配慮から「非課税」とされています。しかし、更新事務手数料はあくまで管理会社が行う「事務手続き代行」というサービスの対価、つまり「役務の提供」に対する報酬です。そのため、たとえ居住用の物件であっても、この手数料部分には10%の消費税がしっかり加算されます。
例えば、「事務手数料は家賃の0.5ヶ月分」という契約の場合、家賃10万円なら5万円ですが、請求額は55,000円になります。また、最近始まったインボイス制度の影響で、個人事業主として自宅兼事務所にしている方などは、この消費税分の仕入税額控除に関わる処理が必要になる場合もあります。
注意点 予算を組む際は、提示されている金額が「税別」なのか「税込」なのかを必ず確認しましょう。特に家賃比例型の場合、消費税分だけで数千円の差が出ます。
請求額2万円は高いのか
読者の皆さんからよく相談を受けるのが、「更新事務手数料として2万円請求されたのですが、これって高いですか?」という質問です。これに対する私の答えは、「今の市場環境なら、決して高くはなく、むしろ標準的」というものです。
前述した通り、大手管理会社の定額プランの多くが1万円台後半から3万円台に設定されています。人件費の高騰や、契約手続きのコンプライアンス厳格化に伴うシステムコストを考えると、管理会社としても2万円程度は確保したいというのが本音でしょう。
もし請求額が1万円〜1.5万円であれば「良心的」、2万円〜3万円であれば「相場通り」、3万円を超えてくると「少し高いかな」という感覚です。もちろん、これはあくまで定額型の場合の話です。家賃比例型で、家賃5万円の物件に対して事務手数料5万円(1ヶ月分)を請求されたとしたら、それは明らかに相場より高いと言えます。
「紙を一枚送るだけで2万円も取るのか」という感情的な反発もよく分かりますが、管理会社は更新時に入居者の現況確認や火災保険の手配、保証会社の更新手続きなど、見えない裏方業務を行っています。ビジネスの対価として、2万円前後という金額は現在の業界水準としては妥当なラインだと理解しておいた方が、無用なトラブルを避けられます。
手数料の値上げと対処法
最近トラブルとして増えているのが、「前回の更新時は1万円だったのに、今回は2万円に値上げされている」というケースです。管理会社の変更や、料金体系の改定によって、いきなり金額が跳ね上がることがあります。
基本的に、契約条件の変更には借主の同意が必要です。しかし、更新通知書にサラッと「料金改定のお知らせ」が同封されていて、気づかずに更新手続きをしてしまうと、同意したとみなされてしまいます。
もし大幅な値上げがあった場合、まずは管理会社に電話をして「前回と同じ金額になりませんか?」「なぜ倍になったのですか?」と問い合わせてみる価値はあります。特に、契約書に「更新事務手数料は一律〇〇円」と明記されているにも関わらず、それと異なる金額を請求された場合は、契約書の内容が優先されますので、断固として拒否できます。
一方で、契約書に「更新時の手数料は管理会社の規定による」といった曖昧な表現になっている場合は、管理会社側の規定変更に従わざるを得ないことが多く、交渉は難航しがちです。それでも、「物価高騰は理解するが、急な2倍の値上げは困る」といった誠実な相談をすることで、今回は据え置きにしてもらえるケースも稀にあります。
更新事務手数料の相場から見る交渉術
ここからは、少し踏み込んで「交渉」や「法的義務」についてお話しします。ただ単に「払いたくない」と駄々をこねるのではなく、知識武装した上で賢く立ち回ることが重要です。
払わないといけない義務は?

そもそも、更新事務手数料を支払う義務はあるのでしょうか? 結論は、「賃貸借契約書に記載があるかどうか」で100%決まります。
日本の法律には「更新事務手数料を払わなければならない」という条文はありません。支払義務が発生するのは、あくまであなたと貸主(管理会社)の間で交わした契約に基づく場合のみです。
もし、お手元の契約書を確認して、更新に関する条項に「更新料」の記載はあるが、「更新事務手数料」についての記載が一切ない場合、法的には支払う義務はありません。管理会社が慣習として請求書を送ってきているだけなら、「契約書に記載がないので支払いません」と突っぱねることは可能です。
しかし、近年の契約書のほとんどには、「更新時には更新料〇ヶ月分および更新事務手数料〇〇円を支払う」という特約がしっかりと盛り込まれています。契約時にこれにサイン(署名・捺印)している以上、「見ていなかった」は通用せず、私的自治の原則により支払い義務が発生します。
違法性や法的根拠の解説
「法律で決まってない手数料を取るなんて違法じゃないか!」という声も聞かれますが、これを違法とするのは難しいのが現状です。
消費者契約法第10条では、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされています。かつて更新料については最高裁まで争われましたが、「家賃の数ヶ月分程度なら高すぎるとはいえず、有効」という判決が確定しています。これに準じて、更新事務手数料についても、常識外れに高額でない限り(数万円程度なら)有効と解釈されるのが一般的です。
特に注目すべきは、東京地裁令和3年1月21日の判決です。この裁判では、自動更新(法定更新)になった場合でも更新事務手数料を払う必要があるかが争われましたが、裁判所は「契約書に規定があれば、事務実態がなくても支払義務がある」という趣旨の判断を下しました。
つまり、たとえ管理会社が何も仕事をしていなくても、契約書に「払う」と書いてあれば払わなければならないというのが、現在の司法のスタンスなのです。「事務をしてないから払わない」という理屈は、残念ながら法廷では通用しにくいという現実を知っておく必要があります。
注意点 ネット上には「法定更新に持ち込めば払わなくて済む」という情報もありますが、契約書に「法定更新でも手数料がかかる」と書かれている場合、逃げ道はありません。むしろ遅延損害金を請求されるリスクがあります。
払いたくない場合の交渉術

法的に義務があるとしても、交渉すること自体は自由です。私がおすすめする交渉のアプローチは、「全面拒否」ではなく「条件変更」です。
例えば、「更新事務手数料を無料にしてくれ」と言うと、管理会社の売上を直撃するため強く抵抗されます。しかし、「長く住み続けたいので、更新料は払いますが、エアコンが古くなってきたので交換してもらえませんか?」あるいは「今の家賃相場が下がっているので、月々の家賃を2,000円下げてもらえませんか?」という交渉なら、オーナーにとっても空室になるよりはマシなので、通る可能性があります。
また、どうしても手数料そのものを安くしたい場合は、閑散期(4月〜8月など)を狙うのも一つの手です。繁忙期に「嫌なら出ていけ」と言われるリスクを避け、「今退去されると困る」というタイミングで、「更新費用の負担が重いので引っ越しを検討している。少しでも減額してもらえれば更新したい」と持ちかけるのです。
交渉のコツ 「高いからまけて」ではなく、「周辺の家賃相場」や「自分の優良な入居実績(滞納なし)」を材料に、ビジネスライクに交渉しましょう。
火災保険を自分で選び節約

更新時のコストを下げたいなら、事務手数料の交渉よりも確実で効果的なのが火災保険の見直しです。
更新通知には、管理会社が提携している保険会社の払込票(2万円〜2万5千円程度)が同封されていることが多いですが、これに加入する法的義務はありません。契約書で義務付けられているのは「借家人賠償責任保険」に加入することであり、指定の保険会社である必要はないケースがほとんどです。
自分でネット型の火災保険や、都道府県民共済などを探せば、年間4,000円〜5,000円程度で十分な補償が得られるプランが見つかります。2年間で考えれば、1万円〜1万5千円程度の節約になります。
手順は簡単です。更新の1ヶ月ほど前に管理会社へ「保険は自分で安いものに入りますので、保険証券のコピーを送ります」と連絡するだけです。これは誰でもできる最強の節約術ですが、意外と実践している人が少ないので、ぜひ試してみてください。
更新のタイミングと注意点
更新手続きや交渉を行う上で、タイミングは命です。多くの契約では、期間満了の1ヶ月前までに解約予告をする必要があります。
もし更新料を払いたくなくて退去を決意する場合でも、この期限を過ぎてから申し出ると、更新料を請求されたり、住んでいない期間の家賃を違約金として取られたりするトラブルになります。
また、交渉をするなら更新通知が届いた直後、満了の2〜3ヶ月前がベストです。ギリギリになってから「払いたくない」と言い出すと、時間切れで不利な条件を飲まざるを得なくなります。更新通知が来たらすぐに開封し、内容を確認してアクションを起こす。これが鉄則です。
また、「24時間サポート費用」などがしれっと請求に含まれている場合も要注意です。契約書で必須となっていなければ、「これは不要なので外してください」と言えば、1万5千円ほど浮く可能性があります。
更新事務手数料の相場と対策まとめ
ここまで、更新事務手数料の相場や仕組み、そして交渉のポイントについて解説してきました。最後に重要なポイントを整理しておきます。
まず、更新事務手数料の相場は、家賃の0.5ヶ月分または定額1〜3万円が一般的であり、これに消費税がかかります。法的には、契約書に記載があれば支払う義務があり、単に「高いから」という理由で拒否することは難しいのが現実です。
しかし、言いなりになる必要はありません。火災保険を自分で選んでコストを下げたり、不要な付帯サービスを解約したり、あるいは更新料を払う代わりに設備交換や家賃減額を交渉したりと、できることは沢山あります。
感情的に支払いを拒否して保証会社のブラックリストに載ってしまうと、将来の住宅ローンやクレジットカード審査にまで影響する恐れがあります。それはあまりにリスクが大きすぎます。
大切なのは、契約書をよく読み、自分の置かれた状況(相場と比較してどうか、契約条項はどうなっているか)を冷静に分析することです。その上で、納得して支払うのか、賢く交渉するのかを選択してください。この記事が、皆さんの更新時のモヤモヤを解消し、少しでも納得のいく契約更新の一助になれば幸いです。
免責事項 本記事の情報は一般的な事例に基づいています。具体的な契約内容や交渉については、必ずお手元の賃貸借契約書をご確認の上、必要に応じて消費生活センターや弁護士等の専門家にご相談ください。