
こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、運営者の熊坂です。
ご両親が住んでいた賃貸物件に、お子様がそのまま住み続けたいと考えるケースは非常に多いですね。引っ越しの手間も省けますし、慣れ親しんだ環境で暮らせるのは大きなメリットです。しかし、賃貸における契約者変更の手続きは、実は単なる名義変更では済まないことがほとんどだという事実をご存知でしょうか。
親から子への変更であっても、そこには審査の壁や手数料の相場、そして無職の場合の対応など、数多くのハードルが存在します。必要書類の準備や連帯保証人の扱い、さらには黙って住み続けた場合のトラブルリスクまで、正しい知識がないと思わぬ損をしてしまうかもしれません。この記事では、私が宅建士として培った経験をもとに、皆さんがスムーズに契約を引き継ぐための具体的な方法を分かりやすくお伝えします。
- 親から子への変更が「新規契約」扱いになる理由とコストの真実
- 再審査で重要視されるポイントと無職でも通過するための戦略
- 敷金の引き継ぎや火災保険の切り替えなど見落としがちな手続き
- 高額な初期費用を抑えるための交渉テクニックとリスク管理
賃貸の契約者変更を親から子へ行う際の手数料と相場

「親子なんだから、名前を書き換えるだけで済むはず」と思っていませんか?実は、不動産業界の実務において、親から子への契約者変更が単純な事務手続きで完了することは極めて稀です。なぜ高額な費用がかかる「新規契約」扱いになってしまうのか、その背景にある理由と、実際に用意すべきお金の相場について、まずはしっかりと理解しておきましょう。
名義変更ではなく新規契約になる理由
多くの入居者様が驚かれるのが、親から子へ契約者を変更したいと申し出た際に、管理会社から「一度解約して、新規契約を結び直す必要があります」と告げられることです。なぜ、同じ家族であるのにこれほど厳格な手続きが求められるのでしょうか。
最大の理由は、賃貸借契約が「貸主と借主の個人的な信頼関係」の上に成り立っているからです。お父様やお母様には長年の勤続実績や年金といった安定した「信用」がありますが、その信用はお子様に自動的に引き継がれるものではありません。貸主から見れば、これから住むお子様は「支払い能力が未知数の別人」なのです。
ここがポイント
信用のリセット 親の信用力と子の信用力は別物です。貸主は「家賃を払い続けられるか」を改めて審査する権利を持っています。
また、契約内容の「現代化」という側面もあります。親御さんが10年、20年と同じ部屋に住んでいた場合、当時の契約書の内容が現在の法律(民法改正など)や市場のルールと合っていないことがよくあります。例えば、昔は不要だった保証会社の利用が必須になっていたり、退去時のクリーニング特約が曖昧だったりします。管理会社としては、契約者が変わるこのタイミングで、契約内容を最新の基準(コンプライアンス)に合わせ、リスク管理を徹底したいという意図があるのです。
さらに、お部屋の傷や汚れに関する責任の所在も重要です。名義変更だけで済ませてしまうと、将来お子様が退去する際に、「この傷は親の代についたものか、子の代についたものか」で揉める原因になります。そのため、一度契約を区切り、責任の所在を明確にする「巻き直し」が好まれるのです。
契約者変更にかかる費用の相場

では、実際にどれくらいの費用がかかるのでしょうか。「名義変更」として事務的に処理される場合と、「新規契約」として扱われる場合では、負担額に天と地ほどの差が生まれます。心の準備をするためにも、以下の比較を見てみましょう。
| 費目 | パターンA:名義変更のみ | パターンB:新規契約(再契約) |
|---|---|---|
| 事務手数料 | 1万〜3万円 | なし(仲介手数料に含まれる場合が多い) |
| 仲介手数料 | なし | 家賃の0.5〜1.1ヶ月分 |
| 敷金・礼金 | 引継ぎ(0円) | 家賃の1〜3ヶ月分(親の分は返還) |
| 保証会社費用 | なし | 総賃料の50%〜100% |
| 火災保険料 | 変更手続き(差額精算) | 1.5万〜2万円(新規加入) |
| 鍵交換費用 | なし | 1.5万〜3万円(任意または必須) |
| 合計目安 | 約1万〜3万円 | 約20万〜45万円(家賃8万円の場合) |
このように、新規契約扱いになると、引っ越しをするのとほぼ同等の初期費用がかかることが一般的です。特に、敷金や礼金の再設定、保証会社への初回保証料、そして仲介手数料が重くのしかかります。「住んでいる人は変わらないのに、なぜ?」と感じるのも無理はありませんが、これが不動産業界のスタンダードな運用となっているのが現状です。
注意点
個人オーナーの物件などでは、長年の付き合いで手数料程度で認めてくれる温情的なケースもありますが、大手管理会社の場合はマニュアル通り厳格に費用を請求される傾向が強いです。
必要な仲介手数料の仕組み
費用の中でも特に納得がいきにくいのが「仲介手数料」ではないでしょうか。通常、仲介手数料は「お部屋を紹介してくれた対価」として不動産会社に支払うものです。しかし、今回のように既に住んでいる物件の契約者を変更する場合、不動産会社は物件を探したり案内したりする業務を行っていません。
「業務が発生していないのに、家賃の1ヶ月分も払うのはおかしいのでは?」
この疑問はもっともです。実務上、契約の巻き直しには重要事項説明書の作成や契約書の締結といった事務作業が発生しますが、それが「仲介」にあたるかどうかはグレーな部分もあります。そのため、ここは交渉の余地があるポイントです。
例えば、「募集活動や内見の手間がかかっていないので、仲介手数料を事務手数料レベル(数万円)に減額してもらえませんか?」と相談してみるのは一つの手です。もちろん、全ての業者が応じてくれるわけではありませんが、誠実に依頼することで、半額や定額の手数料に落ち着くケースも散見されます。最初から言われるがままに支払うのではなく、まずは相談してみる姿勢が大切かなと思います。
親から子への承継でも審査がある

「親が長年住んでいてトラブルもなかったのだから、子供の私も当然信用してもらえるはず」と思っていませんか?残念ながら、契約者が変わるということは、審査もゼロからのスタートになります。そして、この審査は決して形式的なものではありません。
特に厳しくチェックされるのが「家賃の支払い能力」です。一般的に、審査のボーダーラインは「月収が家賃の3倍以上(または年収が家賃の36倍以上)」と言われています。家賃8万円のお部屋であれば、月収24万円、年収300万円程度が目安です。
親御さんの世代は年功序列で収入が安定していたかもしれませんが、これから契約するお子様が若年層の場合、この基準をクリアするのが難しいこともあります。また、金額だけでなく「収入の安定性」も重視されます。正社員に比べて、アルバイトや派遣社員、フリーランスの方は審査が厳しくなる傾向があります。
過去の入居態度も見られています
同居人として既に住んでいた場合、これまでの騒音トラブルやゴミ出しのマナー、家賃の遅れがなかったかもチェック対象です。これらに問題があると、収入が十分でも「契約不可(実質的な退去勧告)」となるリスクがあります。
連帯保証人は引き継げない注意点

契約手続きにおいて非常に重要なのが「連帯保証人」の扱いです。よくある誤解として、「親の契約の時の連帯保証人(例えば叔父さんなど)が、そのまま自分の保証人になってくれるだろう」というものがあります。
法的には、契約者が変われば、連帯保証契約もリセットされます。つまり、以前の保証人の方が、自動的にお子様の契約の保証人になることはありません。新たに保証人をお願いし、承諾を得て、印鑑証明書などを提出してもらう必要があります。
さらに、2020年の民法改正により、個人の連帯保証契約には「極度額(保証の上限額)」を定めることが義務付けられました。親御さんが契約した時代にはなかったこのルールにより、改めて新しい書式での契約締結が必須となります。最近では、個人の連帯保証人ではなく、家賃保証会社の利用を必須とする物件も増えていますので、その場合は保証会社への審査と費用が新たに発生することになります。
無断で住み続けるとトラブルになる
「手続きが面倒だし、お金もかかるから、親の名義のままこっそり住み続けよう」
正直、そう考えたくなる気持ちは痛いほど分かります。しかし、これは最も危険な選択です。親御さんが退去(転居や死亡)し、お子様だけが住んでいる状態で契約変更を行わない場合、民法上の「無断転貸(又貸し)」とみなされる可能性が高いからです。
無断転貸は、賃貸借契約における重大な信頼関係の破壊行為にあたります。これが発覚した場合、貸主は「催告なし」で契約を解除し、即時の退去を命じることができます。「バレないだろう」と思っていても、更新手続きの書類郵送や、設備の修理対応、近隣からの通報などで発覚するケースは後を絶ちません。
最悪の場合、住む場所を突然失うだけでなく、違約金や損害賠償を請求されることもあります。リスクがあまりにも大きいため、必ず正規の手続きを踏むことを強くお勧めします。
賃貸の契約者変更を親から子でする時の審査や必要書類

ここまで費用のリスクを中心にお伝えしてきましたが、ここからは実際の手続きの「How to」について深掘りしていきましょう。審査をスムーズに通すための準備や、無職・低収入といった不利な条件をカバーする戦略など、現場の知恵を共有します。
手続きの流れと必要書類リスト
契約者変更の手続きは、口頭で「変えます」と言って終わるものではありません。一般的な流れは以下のようになります。
- 管理会社への相談:親が高齢になった、就職したなどの理由を伝え、変更を打診します。
- 申込書の提出:新規契約として、お子様の情報を記載した入居申込書を提出します。
- 入居審査:保証会社やオーナーによる審査が行われます(通常3日〜1週間)。
- 契約締結・決済:重要事項説明を受け、新契約書に署名捺印し、費用を支払います。
- 旧契約の解約:親御さんの契約を終了させる手続きを同時に行います。
この過程で必要となる書類は多岐にわたります。直前になって慌てないよう、以下のリストを参考に準備を進めておきましょう。
| 提出者 | 主な必要書類 | 備考 |
|---|---|---|
| 新契約者(子) | ・身分証明書(免許証等) ・住民票(世帯全員分) ・収入証明書(源泉徴収票等) ・印鑑証明書 | 審査の核心となる書類です。写真は直近のものを用意しましょう。 |
| 現契約者(親) | ・解約届または変更同意書 ・印鑑証明書 | 契約解除の意思確認に使います。 |
| 連帯保証人 | ・承諾書 ・印鑑証明書 ・収入証明書 | 新たに保証を引き受ける意思証明です。 |
※必要書類は管理会社によって異なります。必ず指示に従ってください。
敷金の引き継ぎと返還の仕組み

費用の負担を大きく左右するのが「敷金」の扱いです。ここには主に2つのパターンが存在します。
一つ目は「敷金持ち回り(承継)方式」です。これは、親御さんが預けていた敷金の返還請求権を、そのままお子様が引き継ぐ方法です。「敷金返還請求権譲渡証書」などの書類を交わすことで、お子様は新たに現金を容易する必要がなくなります。一見メリットが大きいですが、将来退去する際に、親御さんが住んでいた期間の汚れや損耗についても、お子様が原状回復費用を負担することになる点には注意が必要です。
二つ目は「一旦精算・再預け入れ方式」です。多くの管理会社はこちらを採用しています。一度親御さんの契約を完全に終了させ、その時点での原状回復費用を差し引いて敷金を親御さんに返還します。その上で、お子様は新たに満額の敷金を支払います。一時的な出費は増えますが、責任の所在が明確になり、お子様は(契約上は)綺麗な状態からスタートできるメリットがあります。
無職でも審査を通すための対策
「今は求職中で無職だけれど、親から契約を引き継ぎたい」
このような状況にある方も少なくありません。通常、無職の状態では審査に通過するのは困難ですが、諦めるのはまだ早いです。いくつかの突破口が存在します。
まず有効なのが「預貯金審査」です。現在の収入(フロー)がなくても、十分な資産(ストック)があれば支払い能力ありとみなされる場合があります。目安としては、家賃の2年分(24ヶ月分)程度の残高が通帳にあれば、審査の土台に乗ることが多いです。
次に検討すべきは「親族による代理契約」です。例えば、収入のあるご兄弟や親戚を契約者とし、ご自身は「入居者」として登録する方法です。ただし、入居しない名義貸しは禁止されているため、必ず事情を説明し、貸主の承諾を得た上で「契約者は親族、入居者は自分」という形を認めてもらう必要があります。
最後の手段として、「家賃の前払い」という交渉カードもあります。半年から1年分の家賃を一括で前払いすることで、貸主側の「滞納されるかもしれない」という不安を物理的に解消するのです。これらは必ず通る方法ではありませんが、誠意を持って交渉する価値は十分にあります。
火災保険の解約と新規加入手続き
意外と忘れがちなのが火災保険の手続きです。火災保険は「建物」にかけるものではなく、「家財」と「そこに住む人」にかけるものです。そのため、契約者が変われば、保険もかけ直しになるのが原則です。
手続きとしては、親御さんが加入していた保険を解約し、お子様の名義で新たに加入します。ここで注意したいのが「無保険期間(空白期間)」を作らないことです。解約と新規加入のタイミングがずれてしまい、保険に入っていない期間に万が一の水漏れ事故や火災を起こしてしまったら、莫大な賠償金を自己負担することになります。
豆知識
親御さんが保険料を一括払いしていた場合、解約手続きをすることで未経過期間分の保険料が戻ってくる(解約返戻金)ことがあります。少額でも無駄にしないよう、確実に手続きを行いましょう。
審査に落ちるケースと対処法

万全の準備をしたつもりでも、審査に落ちてしまうことはあります。主な原因としては、収入不足のほかに、過去のクレジットカード滞納(ブラックリスト)や、携帯電話料金の未払いなどが信用情報機関に記録されているケースが挙げられます。特に信販系の保証会社を利用する場合、この「信用情報」は厳しくチェックされます。
もし審査に落ちてしまった場合は、どうすれば良いのでしょうか。
- 保証会社を変えて再審査する:保証会社には「信販系」「協会系」「独立系」などの種類があり、審査基準が異なります。管理会社に相談し、審査が比較的緩やかな独立系の保証会社で再トライできないか確認してみましょう。
- 連帯保証人を立てる:保証会社だけでなく、収入のある親族を連帯保証人として追加することで信用を補強できる場合があります。
審査落ちはショックですが、理由を推測し、別のルートを探ることで解決できることもあります。管理会社の担当者とよく相談し、味方につけることが重要です。
賃貸の契約者変更を親から子でする際の重要ポイント
最後に、今回の記事の要点をまとめます。親から子への契約承継は、単なる名義書き換えではなく、実質的な「お引越し(新規契約)」と同等のエネルギーとコストがかかる一大イベントです。
しかし、住み慣れた我が家を守り、生活の基盤を維持するためには必要な手続きでもあります。「こんなにお金がかかるなんて知らなかった」と後悔しないよう、事前にしっかりと見積もりを取り、審査対策を練っておくことが成功の鍵です。管理会社や大家さんとは敵対するのではなく、「これからも長く大切に住まわせていただきたい」という誠実な姿勢で交渉に臨むことで、費用面や審査面で柔軟な対応を引き出せる可能性も高まります。
この記事が、皆さんのスムーズな契約承継の一助となれば幸いです。不明な点があれば、まずは管理会社に「相談」という形で連絡を入れてみてくださいね。
免責事項
本記事の情報は一般的な事例に基づいています。実際の契約条件や費用は物件や管理会社によって大きく異なります。正確な情報は必ず契約書や管理会社へお問い合わせください。