こんにちは。賃貸トラブル解決ナビ、運営者の熊坂です。
快適なネット環境を整えるために光回線を導入したいけれど、工事の際に壁へビス留めが必要だと言われて困っていませんか。賃貸物件にお住まいの場合、勝手に穴あけをしてしまうと退去時の原状回復やその費用についてトラブルになるケースが非常に多いです。管理会社や大家さんへの許可取りはどうすればいいのか、もしビス穴を開けてしまったら修繕費はいくらかかるのか、といった不安は尽きないものですよね。
- 国土交通省のガイドラインに基づくビス穴の扱いと責任の所在
- 万が一ビス留めをしてしまった場合の原状回復費用の相場
- 管理会社や大家さんに工事の許可をもらうための交渉テクニック
- 壁に穴を開けずに光回線を導入するための具体的な代替案
賃貸の光回線工事でビス留めした場合の原状回復費用
光回線の引き込み工事では、光キャビネットを外壁に固定したり、室内に光コンセントを設置したりする工程で「ビス留め（ネジ固定）」を求められることがあります。しかし、賃貸物件においてこの行為が金銭的にどのようなリスクを伴うのか、正確に把握している人は多くありません。ここでは、法律やガイドラインの観点から見た責任の所在や、具体的な費用の目安について深掘りしていきます。
国交省ガイドラインでのビス穴の扱い
賃貸物件の退去時における原状回復について、実務上最もよく参照されているのが、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。これは法律そのものではありませんが、過去の裁判例や実務慣行を踏まえた標準的な考え方が示されており、多くの管理会社がこの基準を参考にしています。
まず基本的な考え方として、ポスターやカレンダーを貼るために使用する「画鋲」や「ピン」程度の小さな穴であれば、通常の生活で発生しうる範囲（通常損耗）とみなされ、入居者が修繕費用を負担する必要はないとされています。画鋲の穴は下地ボードの張り替えを必要としないケースがほとんどだからです。
しかし、光回線工事で使用される「ビス」や「ネジ」は話が別です。これらは画鋲よりも太く、深く壁に突き刺さるため、下地の石膏ボードまで貫通して損傷させる可能性が高くなります。ガイドラインでも、重量物を掛けるために開けたネジ穴や釘穴については、通常の使用による損耗を超えた「入居者の故意・過失による損傷」として扱われる傾向があります。
つまり、光回線の工事であっても、壁にビス留めを行えば「特別損耗」と判断され、退去時に原状回復費用を請求される可能性が高いと考えた方が安全です。「工事の人が必要だと言ったから」という理由は、賃貸契約上の免罪符にはなりにくいので、まずはこの前提をしっかりと理解しておく必要があります。
無断工事で発生するトラブルのリスク
「バレなければ大丈夫だろう」と考えて、管理会社や大家さんに無断で光回線のビス留め工事を行ってしまうケースが後を絶ちませんが、これは非常に危険な行為です。賃貸借契約書には通常、「造作の加工や模様替えの禁止」や「原状回復義務」に関する条項が記載されています。無断で壁に穴を開ける行為は、これらの契約条項に違反する可能性が高いのです。
最大のリスクは、単に穴を埋める費用を請求されるだけでなく、大家さんとの信頼関係が完全に崩壊することです。特に個人の大家さんが管理している物件の場合、無断工事が発覚した時点で「契約違反」として、最悪の場合は退去を迫られるケースや、更新を拒否されるケースもゼロではありません。
注意点：共有部分への穴あけはさらに深刻 特に注意が必要なのが、外壁へのビス留めです。マンションやアパートの外壁は「共有部分」にあたります。専有部分である室内とは異なり、共有部分への無断加工は区分所有法や管理規約で厳しく制限されています。ここを勝手に傷つけると、原状回復費用だけでなく、損害賠償請求に発展する恐れさえあります。
また、退去時の立会い検査で無断工事が発覚した場合、管理会社側の心証も悪くなります。本来であれば交渉次第で減額できたかもしれない他の箇所のクリーニング費用や修繕費についても、厳格に請求されるきっかけになりかねません。無断工事は「百害あって一利なし」と心得ましょう。
修繕費が大家負担になるケースとは
では、ビス留めによる穴の修繕費が大家さん負担になるケースは存在するのでしょうか。基本的には入居者負担となるのが原則ですが、例外的なシチュエーションもいくつか考えられます。
一つは、入居前からすでに同様のビス穴が開いていた場合です。もし以前の入居者が残した穴を利用して光回線の機器を設置しただけであれば、あなたが新たな損傷を与えたわけではないため、修繕費用を負担する必要はありません。ただし、これを証明するためには「入居時のチェックリスト」や「日付入りの写真」などの証拠が不可欠です。
もう一つは、耐用年数を超過した場合の壁紙（クロス）の価値に関する考え方です。ガイドラインでは、壁紙（クロス）の耐用年数を6年とみなし、入居からの経過年数に応じて残存価値を計算する考え方が示されています。6年以上経過している場合には、クロス自体の価値はほぼゼロとみなされるため、入居者が負担すべき金額が大きく減る、あるいは負担なしと判断されることもあります。
ここがポイント 長く住んでいれば「壁紙」の負担額は減りますが、ビス留めによって下地ボードまで深く損傷している場合、その補修費用や交換費用については、居住年数にかかわらず入居者負担と判断されるケースも少なくありません。壁紙が古くても、穴を開けた事実に対する責任が消えるわけではない点に注意が必要です。
クロス張替えにかかる修繕費の相場
実際に退去時に請求される原状回復費用はどのくらいになるのでしょうか。具体的な金額は業者や被害状況によりますが、一般的な相場を知っておくことは心の準備として重要です。
まず、ビス穴が小さく、下地ボードの交換までは不要で、壁紙（クロス）の一部補修や張り替えで済む場合です。この場合、クロスの張り替え費用は1平方メートルあたり「1,000円〜1,500円」程度が相場です。ただし、日本の賃貸慣習では「1面単位」での張り替えを求められることが多く、その場合は壁一面分で「10,000円〜30,000円」程度の請求になることもあります。
問題なのは、ビスが深く刺さっており、石膏ボード自体に大きなダメージを与えてしまった場合です。このケースでは「ボードの穴埋め補修」または「ボードの交換」が必要になります。ボードの部分補修であれば数千円〜1万円程度が加算されるイメージですが、ボード交換となると大掛かりな工事となり、費用は「20,000円〜50,000円」、場合によってはそれ以上に跳ね上がる可能性があります。
| 修繕内容 | 費用の目安（相場） |
|---|---|
| クロスの部分補修・洗浄 | 数千円 〜 |
| クロス張り替え（1㎡あたり） | 1,000円 〜 1,500円 |
| クロス張り替え（壁一面） | 10,000円 〜 30,000円 |
| 石膏ボードの部分補修 | 5,000円 〜 15,000円 |
| 石膏ボードの交換 | 30,000円 〜 50,000円以上 |
「たかが小さな穴」と侮っていると、退去時に敷金が返ってこないどころか、追加請求が発生する事態にもなりかねません。特に光コンセントの設置などで複数のビスを打ち込んだ場合は、その数だけ補修箇所が増えるため、リスクも増大します。
退去時の撤去義務と原状回復の範囲
光回線を契約して機器を設置した後、退去する際には「撤去工事」が必要になる場合があります。ここで重要になるのが、賃貸契約における「原状回復義務」の範囲です。
通常、入居者が独自に設置した設備は、退去時にすべて取り外して入居時の状態に戻す義務があります。これを「残置物の撤去」と呼びます。光回線のケーブルや光コンセントも例外ではありません。もし撤去工事を行わずに退去した場合、後から管理会社が業者を手配して撤去することになり、その費用（工事内容によっては1万円〜数万円程度になることもあります）を請求されることがあります。
しかし、最近では「次に入居する人のために光回線を残しておいてほしい」と大家さん側から要望されるケースも増えています。この場合、ビス穴が開いた状態のまま設備を残置することになりますが、大家さんの承諾があれば原状回復義務が免除され、修繕費用もかからないことがあります。
撤去が必要か、残置しても良いかは、管理会社や大家さんの意向次第です。自己判断で撤去せずに退去するのはトラブルの元ですので、解約手続きをする前に必ず管理会社へ「回線を撤去すべきか、残置しても良いか」を確認するようにしましょう。
自分で穴埋め補修してバレる可能性
退去費用を安く済ませるために、ホームセンターなどで売られている「穴埋めパテ」や「補修キット」を使って、自分でビス穴を隠そうと考える方もいるかもしれません。結論から言うと、素人のDIY補修はプロの目から見ればすぐに見抜かれる可能性が高く、あまりおすすめできません。
退去時の立会い検査を行うのは、原状回復のプロや経験豊富な管理会社の担当者です。彼らは壁の凹凸や色味の微妙な違い、クロスの継ぎ目などを細かくチェックしています。市販のパテで埋めた跡は、時間が経つと乾燥して痩せてしまったり、周囲のクロスと色が合わずに浮いて見えたりすることがよくあります。
もし自分で補修したことがバレた場合、「隠蔽しようとした」として心証を悪くするだけでなく、中途半端な補修材を取り除く手間が増えるため、「補修作業費」が上乗せされるリスクさえあります。「きれいに直せる自信がある」というプロ並みの腕前でない限り、正直に申告してプロに任せたほうが、結果的にトラブルも費用も最小限に抑えられることが多いのが現実です。
賃貸の光回線でビス留めせず原状回復費用を抑える策
ここまでビス留めのリスクについて解説してきましたが、「じゃあ賃貸で光回線は諦めるしかないの？」と落胆する必要はありません。実は、壁に穴を開けずに光回線を導入する方法や、交渉次第でスムーズに設置できるケースはたくさんあります。ここからは、原状回復費用を心配せずに快適なネット環境を手に入れるための具体的な対策を紹介します。
管理会社への許可取りと交渉のコツ
光回線工事でビス留めが必要になりそうな場合、まずは正直に管理会社や大家さんに相談することが第一歩です。しかし、ただ「工事していいですか？」と聞くだけでは、「建物に傷がつくのは困る」と断られてしまう可能性があります。交渉を成功させるためには、伝え方の工夫が必要です。
おすすめの交渉術は、「物件の付加価値が上がる」というメリットを提示することです。「光回線を導入して、退去時には設備をそのまま残置します。そうすれば、次の入居者さんは工事不要ですぐにインターネットが使える『光回線対応物件』として募集できますよ」と提案してみましょう。
空室対策に悩む大家さんにとって、インターネット無料や光回線導入済みというのは強力なアピールポイントになります。「ビス留めによる小さな傷」というデメリットよりも、「物件の価値向上」というメリットの方が大きいと感じてもらえれば、工事の許可だけでなく、退去時の原状回復免除まで勝ち取れる可能性があります。
交渉時のポイント 電話だけでなく、工事内容がわかる図面や資料（回線業者のサイトにある工事説明図など）を見せながら説明すると、大家さんも安心しやすくなります。「どこに、どのくらいの大きさの穴が開くのか」を具体的に共有することが、不信感を取り除く鍵です。
エアコンダクトを活用した導入方法
物理的に壁に穴を開けずに光ケーブルを室内に引き込むための代表的な方法が、「エアコンダクト（配管穴）」の利用です。多くの賃貸物件には、エアコンを設置するための穴がすでに開いています。この穴の隙間を通して、外から光ファイバーケーブルを通すことが可能です。
この方法であれば、新たに壁に穴を開ける必要が一切ありません。多くの光回線業者は、標準工事の範囲内でエアコンダクト利用に対応してくれます。申し込み時や、事前の現地調査（下見）の際に、「壁に穴を開けられないので、エアコンダクトを使って引き込んでほしい」と明確に伝えましょう。
ただし、エアコンダクトの位置や配管の混み具合によっては利用できない場合もあります。また、エアコンが設置されていない部屋に引き込みたい場合は使えません。それでも、まずはこのルートを検討するのが最もリスクの低い選択肢です。
両面テープで固定する際の注意点
室内に設置する光コンセントや、ONU（回線終端装置）などの機器を固定するために、「強力両面テープ」を使おうと考える人もいるでしょう。ビスを使わないので一見良さそうに見えますが、実はこれも原状回復の観点からは注意が必要です。
市販の「超強力」と書かれた両面テープは、粘着力が強すぎるため、退去時に剥がそうとすると壁紙（クロス）ごとベリッと剥がれてしまうことが多々あります。壁紙が剥がれてしまえば、結局はクロスの張り替え費用が発生し、ビス留めと変わらない（あるいはそれ以上に広範囲な）修繕費を請求されることになりかねません。
もし両面テープを使用する場合は、必ず「きれいにはがせるタイプ」や、壁紙用として販売されているマスキングテープを一度下地に貼り、その上から両面テープを貼るなどの工夫が必要です。それでも、長期間貼り付けていると糊残りや変色のリスクがあるため、壁に直接貼るのは極力避けたほうが賢明です。
穴あけ不要で設置できる固定具活用
壁に傷をつけずに機器を固定したい場合、DIY用の便利なアイテムや専用の固定具を活用するのがおすすめです。例えば、ツーバイフォー材（木材）を床と天井で突っ張って柱を作る「ディアウォール」や「ラブリコ」といった商品があります。
これを使って壁の手前に「仮の柱」を作れば、その木材に対しては自由にビス留めが可能です。光コンセントやWi-Fiルーターをこの柱にネジ止めしてしまえば、賃貸の壁には一切傷をつけずに強固に固定できます。見た目もおしゃれに収納できるため、インテリアにこだわる方にも人気の手法です。
また、最近では石膏ボードの壁に対して、ホッチキス（ステープラー）を使って固定できる「壁美人」のような金具も販売されています。ホッチキスの針穴は画鋲よりもさらに小さく、抜いた跡がほとんど目立たないため、画鋲と同様に通常損耗として扱われるケースが多いと考えられます。こうした「穴あけ不要」または「ダメージ極小」のアイテムを賢く使うことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
工事不要なホームルーターという選択
「大家さんに交渉したけれど断られた」「建物の構造上、エアコンダクトも使えない」「どうしても退去費用のリスクを背負いたくない」という場合は、思い切って光回線以外の選択肢に目を向けるのも一つの手です。
コンセントに挿すだけでWi-Fiが使える「ホームルーター（置くだけWi-Fi）」であれば、回線工事は一切不要です。壁に穴を開けることも、業者を部屋に入れる必要もありません。もちろん、通信速度や安定性の面では光回線に劣る場合もありますが、最近の5G対応ホームルーターは性能が飛躍的に向上しており、日常的な動画視聴やテレワーク程度であれば十分に快適に利用できるケースが増えています。
無理に光回線にこだわって高額な原状回復費用を請求されるリスクを負うよりは、工事不要のサービスで手軽にネット環境を整える方が、精神衛生上も経済的にも良い選択となるかもしれません。ご自身の利用用途に合わせて、柔軟に検討してみてください。
賃貸の光回線はビス留めや原状回復費用を考え判断
賃貸物件で光回線を導入する際、「ビス留め」の問題は避けて通れません。安易に穴を開けてしまうと、退去時に数万円単位の原状回復費用を請求されるリスクがあります。しかし、エアコンダクトの活用や専用固定具の利用、そして何より大家さんへの誠実な事前交渉によって、トラブルを回避する方法はいくつもあります。
大切なのは「無断でやらないこと」と「リスクを知った上で対策すること」です。この記事で紹介した費用相場や回避策を参考に、ぜひ後悔のない選択をしてください。まずは管理会社への一本の電話から始めてみましょう。
※本記事で紹介している費用相場や法律解釈は一般的な事例に基づく目安です。実際の契約内容や物件状況によって判断が異なる場合があります。最終的な判断は、必ずご自身の賃貸借契約書を確認し、管理会社や専門家にご相談ください。